草野球 アナザー | ナノ


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今このときでよかったと、卑怯にも安堵する気持ちと、同じ女を好きな男として、潔いと感じる気持ちがあった。


僕がもし逆の立場だったら、想いを絶対に打ち明けることはなかっただろう。

負け試合に全力を尽くすことは、僕にはできない。


ただ、僕は、負けないために勇気を振り絞った。

そこは自分を誇りに思っている。


例えば、どちらがより妻を好きか比べることができたとしたら、高校時代には勝てる自信がなかった。

だけど、今は絶対に負けない確信がある。

そんな自分が、嬉しい。



「今度試合見に来てって。二人で」


そういえば彼の野球を見たことはなかった。

彼は、どんな風にボールを投げるんだろう。


そして少し、話してみたい気もする。

「君がマウンドに上がれないのをわかっていて妻をさらった僕は、卑怯だったかな」

そう聞いたら、嫌味に聞こえてしまうだろうから、やめておくけれど。


だけど、たぶん僕の想像の中の彼なら、

「相手投手のことなんて気にせずにバッターに集中するのがピッチャーの仕事だ。それに本当に欲しいものを前に『正々堂々』なんて、必要ないよ」

なんて返すんじゃないだろうか。
そんなことを想像しながら、僕は少しだけ笑った。



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