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「ほんとしょうがないな、俺」
頑固だけど素直な相棒は、そう言って頭をかく。
「でもさ、お前がしらふでこんなこと言うの、めずらしいな」
…俺は飲んだときの記憶がよく飛ぶから知らないが、酒が入るとこんなことをよく言っているのだろうか。
『恥ずかしさ』の割合が少し増加した。
「セカンドとしては、棒立ちのショートなんかとは組みたくないからな」
そんなことを言って、ごまかす。
そこまで話したところで、整列の号令がかかった。
全員に、『真剣に楽しむ』スイッチが入る。
俺もそれからは、野球を楽しむことだけに集中した。
それから、二人がどうなったのかは、まだ聞いていない。
だけど、あの日の試合が終わった後、あいつはあのこのところへ走り、何かを話していた。
あのこは、最初目をまるくして、それから笑っていた。
もちろんその日を境に、あのこの存在はチームメイトに知れ渡り、野球バカたちが色めき立った。
奴らの質問攻めも、あいつはいつも軽く流しているが、ただひとつだけ。
最初に誰かが「あの子だれだよ!?」と聞くと、あいつは笑って答えたのだった。
「好きな子だよ」
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