▼ 24:笑っていれば
『彼に何かを与えられる人になりたい』
この気持ちを、マリカさんに打ち明けてみた。
するとマリカさんはにこにこしながら、
「リンさまが笑って殿下のおそばにおられるだけで、殿下にはじゅうぶんだと思いますわ」
と言った。
『それだけで?』という私の思考を読み取ったように、マリカさんは続ける。
「だって、好きな人の笑顔って、力になりませんか?」
「なり、ます……」
彼はめったに笑わないし、たまに笑っても意地悪な笑顔がほとんどだけど。
そうか、自分が彼にしてもらって嬉しいことをすればいいんだ、と気付く。
彼の、包み込んでくれるみたいなおっきな愛情にはかなわないかもしれないから、小さな愛情を、少しずつでも。
「もちろん、リンさまが殿下の本当の『お妃様』になられることが、いちばんだとは思いますけれど」
いたずらっぽく笑うマリカさんに、私は俯くしかできない。
「……いろいろと、考えてはいるんですけど」
この前のパーティーでの喧嘩と、その時に起こったことを思い出す。
もしかしたら、たぶん、きっと、怖かった……だけじゃない。
恥ずかしくて、自分が変になりそうで、彼から逃げた。
『怖い』から、彼は待ってくれている。
だとしたら、今の私はただ覚悟が決まっていないだけの、ずるい状態だ。
だけど今は、ここまでが精一杯で。
少しずつ、前に進んでいけたら、と願っている。
「とにかく!せっかくですもの、今から殿下をお散歩にでもお誘いになってはいかがですか?」
マリカさんの提案に、私は思考を中断した。
「え、お仕事は大丈夫でしょうか?」
「執務室にこもりきりの殿下を連れ出してさしあげられるのは、リンさまだけですわよ」
とりあえず、『息抜き』という名目で、彼を誘ってみることにした。
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