my beloved | ナノ


▼ 29:honey moon (3)


二日目、私たちは計画通り街をぶらぶらと歩いていた。

領地内はいえ、王宮から遠く離れたこの街では私たちの顔は知られておらず、幾分気楽に街を歩ける。


「お嬢さん、あまい果物ジュースがあるよ」「そこのご夫婦さん、氷菓子食べていかないかい」

――この街の人は、明らかによそから来た様子の私たちにも気さくに話しかけてくれる。

市場で売ってあるものも、首都の市場とは全く違う。南国、といった感じの食べ物や、土産物などがたくさんある。


今は少し時期外れだけれど、ここは観光地だからだと、彼に聞いた。
確かに一年中温暖で綺麗な海に恵まれたこの場所は、理想的なリゾート地だ。



「それ、持ってきたのか」

彼が私の頭に視線を向ける。


「はい、やっぱりこういうときには付けてたくて」

私の髪には、彼が以前くれた髪飾りが留まっている。

派手じゃないのにかわいらしいデザインがとても好きで、彼がくれたということもあいまって、私のお気に入りだった。さすがに街で買った既製品だから正式な場では使えなくて、出番が少なかったのだ。


彼は小さく笑う。

「やっぱり似合うな」

「あ、ありがとうございます」

私も照れながら笑った。

めずらしいものを見て、食べて、髪には彼のくれた髪飾りがついていて、隣にはもちろん彼がいて――こんな時間を『幸せ』というんだなあと、実感した。




――しかし。


「大変!カズマ様、髪飾りを落としてしまいました!」

私は道の真ん中で立ち止まった。

なんとなく頭が軽い気がして触れてみると、髪飾りがついていなかったのだ。


「こんな人ごみだ、しかたない。また買ってやるからあきらめろ」

「だめですそんなの!――たぶんさっき人とぶつかったときだ……捜してきます!」

「おい、待て……」


彼の制止を背中に聞きながら、私は人ごみをぬって駆け出した。



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