my beloved | ナノ


▼ 27:honey moon (1)


「新婚旅行に行くぞ」

結婚してもうすぐ一年経とうというある日、彼が突然言った。

しかも、またも三日間、王宮を留守にする、その出発の朝に。


「え?」

私はぽかんとする。

「やっとまとまった空き時間が確保できた。今回の仕事が終わったら新婚旅行だ」

「ええっ?そんないきなり……」

「いきなり空き時間ができたんだ。俺は向こうからそのまま行くから、次に会うときは新婚旅行先だ」

「ええーっ!?」

いきなりの展開に、私は驚くばかりだ。

新婚旅行なんて、そんなのはしないものかと思っていた。


「たかだか三泊四日だが……ちょうど三日目が結婚記念日になる」


『結婚記念日』――初めてここに来た時は、それを記念日と思うようになるなんて、想像もしなかった。

……こんなに、好きになるなんて、思いもしなかった。


それを新婚旅行先で祝えるなんて、すごく幸せなことに思えた。


「嫌ならやめるが、どうだ?」

嫌だと言うわけがないとわかっているくせに、彼は私に意志を問う。

「行きたい、です」

私が当然の返答をすると、彼は満足げに頷いた。

「南にある、王族所有の宮殿で過ごすことになる。海があるから楽しみにしておけ」

海を見たことがない私は、目を輝かせる。

「それ以外はここにいるときと変わらないかもしれないが、一日中一緒にいられるのは悪くないだろう」


四日間、ずっと彼と一緒にいられる。

それはまるで夢みたいな、幸せな四日間なんじゃないだろうか。

そして――――


「詳しいことは女官たちに説明してあるはずだから、何かあればマリカにでも聞け」

そう言って部屋を出ようとする彼の袖を、私は掴んだ。


「……あの、カズマ様、」


彼は軽く首を傾げる。

「どうした?」


私は、早鐘を打ち始めた鼓動を意識しながら、彼を見上げた。

「新婚旅行に行くのなら、その時に……私を、カズマ様のほんとの妻に、してください……」


本当は、とっくに決まっていた、覚悟。

ただ、恥ずかしくて、それからやっぱり少しだけ不安で、言い出せなかった。


だから今、顔から火が出そうな思いで、私は彼にその『覚悟』を告げた。



彼は、少し動揺したように、目を見開いた。

「……いいのか?」

さっきみたいに、答えがわかっていて聞くような、そんな問いじゃなくて。
自信家な彼が、めずらしく自信なさげに、確かめるように、問う。


私は、目をぎゅっとつぶって頷いた。


彼は、しばらく何も言わなかった。

そして、少し腰をかがめて私の頬にキスをすると、

「宮殿で、待っていろ」


それだけ告げて、部屋を出ていった。



私は、唇の感触が残る頬に触れたまま、ずっとその場に立ちつくしていた。

鼓動はいつまでも、しずまらない。




その三日後に、一年遅れの新婚旅行は、幕を開けた。

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