▼ 26:ラブレター
例の協定を結んで以来、それに関わる政務で彼は王宮を空けることが多くなった。
今回は特にそれが長くなっていて、いつ帰って来るかわからない。
「リンさん、兵士にカズマへの書状を持っていってもらうんだけど、リンさんも手紙でも書いてみる?」
王様がひょっこりと私の部屋に現れて言った。
「え、手紙ですか」
「うん、味気ない業務連絡に大好きなリンさんからのラブレターがついてたら、嬉しいでしょう」
王様がにこりと笑う。
私は、少し照れながら、手紙を書いてみますと答えた。
ユキのことや、マリカさんと話したいろいろなことを書いてから、少し手を止める。
手紙でくらいは、正直に、気持ちを伝えたい。
すごく寂しいこと、会いたいこと、無理はしないでほしいこと、それから……大好きだということ。
私は何度も恥ずかしさに叫びそうになりながら、手紙を書き上げた。
あまりに正直すぎて彼は引くんじゃないだろうか、と不安になるような手紙になった。
三日後、兵士が彼からの返事を持って帰ってくれた。
この手紙が着く翌日くらいには帰れそうだという内容の短い手紙。
最後は、こう締め括られていた。
『お前のせいで寝不足だ』
私は首を傾げた。何か手紙に変なことを書いただろうか。……いや、書いたけれど。
寝不足、ってどういうことだろう。
どちらにしても明日になれば彼に会えるのだから、その時に聞くことにした。
翌日、手紙の通り彼は帰ってきた。
確かに、寝不足というか少し疲れた顔をしているみたいだ。
彼の着替えを手伝いながら、私は昨日の疑問を口にした。
「カズマ様……あの、私のせいで寝不足って、どういうことでしょうか……?」
すると、彼は苛立ったように目を細めた。
「お前の手紙を読んでいたらお前のことしか考えられなくなって、お前のことを考えていたらいつのまにか夜が明けていたからだと、俺に説明させるつもりか?」
……してる。説明、してます。
久しぶりに、そして不意打ちで、彼に頬を熱くされてしまって、なんだかいつもよりもくらくらしてしまう。
「あ、あの……すみません、でした、でいいんでしょうか…?」
「良くない」
無表情でそう言いながら、彼は私の腕を引く。
彼にすっぽりと包み込まれて、私はますますどきどきする。
「……あの、手紙に書いたことは、ぜんぶほんとの気持ち、です」
真っ赤になりながら、小声でなんとかそれを伝えると、
「いい加減にしろ」
そんな言葉とは裏腹の、優しいキスが落とされた。
prev / next
(1/1)