▼ 25:熱帯夜
私は秋のはじめにこの国へやって来たから、ここで夏を過ごすのは初めてだ。
年中気温の低い故郷と比べ、当然ここの夏は暑く感じる。
『……それにしても暑くないですか!?』
湯浴みを終えた私が叫ぶと、マリカさんは苦笑した。
『今夜は特別暑いですわ。全然気温が下がりませんわね』
そう言って、いつもより薄手の夜着を用意してくれたのだった。
薄い布でできたワンピース型で、袖もないから、涼しさがかなり違う。
私はマリカさんに感謝しながら、寝室の扉を開けた。
――しかし、
「き、きゃあ!か、カズマ様、上着てください!上!」
私は一瞬で体温が上昇してしまった。
ベッドに座り、剣の手入れをしている彼は、上着を脱いでおり、つまり上半身裸の状態だ。
そんなふいうちに私があたふたしていると、彼は眉をひそめた。
「暑いんだ、無茶を言うな」
そして一瞬こちらを見て、また剣に視線を戻す。
「お前こそ何だその薄っぺらいかっこうは」
「あ、マリカさんが用意してくれて……」
「それで湯殿からここまで来たのか」
「え?はい、そうですけど」
「……」
「?」
私は落ち着かなくて、彼に背を向けるように、反対側のベッドの端に腰掛けた。
読みかけの本を開く。
彼が剣の手入れをしている間、私はよく本を読んでいるのだった。
もちろん、普段は背を向けてはいないけれど。
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