▼ 21:風邪をひかせてしまいました
私のせいで風邪をひいてしまったその日、彼はベッドから起き上がれなかった。
しかし最初に水とタオルと着替えを用意させた後、女官たちにも「部屋へは近付くな」と命じたらしい。
「きっと、女官がお世話をしていたら、責任を感じたリンさまが『私がやる』っておっしゃりそうだからですわ」
マリカさんはそう推察していた。
だからと言って、放っておくわけにもいかない。
鍛えている彼が、ふらふらになってしまうほどの風邪なのだ。
「カズマ様、おかゆ作ってきました」
私が寝室の扉を開けると、彼の鋭い声が
飛んだ。
「入るな、うつる」
最初に比べて熱は下がったようだが、まだかなりきつそうだ。
「私、丈夫だからうつりません。というか私のせいで風邪ひいたんですから、むしろうつして治ってください」
そう言ってベッドのそばのテーブルにおかゆを置く。
「馬鹿か……出ろ……」
「じゃあこれ食べてください。朝から何も召し上がってませんよね」
「お前が出てったら食う……」
彼はそう言って頭から毛布をかぶった。
それじゃあ息苦しいだろうに、意地っ張りだ。
うつしたくないと思ってくれるのは嬉しいけれど、
「看病くらいさせてください」
しかし彼はつれなかった。
「自分でやる」
「そんなへろへろで何言ってるんですか!いつまで経っても治りませんよ!」
「治るから……出ていけ……」
ひたすら「出ていけ」を繰り返す彼に、私は怒りを覚えた。
逆の立場なら絶対に出ていかないくせに。
「いい加減にしてください!……あんまり意地張ってたら、……き、キスしちゃいますよ!?そしたらうつっちゃいますから絶対!」
私は脅しをかけた。
これは最強の脅し文句だと思ったのに、彼は、
「……できるもんならやってみろ」
「……っ!」
予想外の返答に、私はぐっと詰まった。
この人、私には絶対できないってタカくくってるんだ。
やけになった私は、思いきり目をつぶり、勢いだけで、彼の唇を奪った。
「……っ、はっ、馬鹿、お前……!」
彼がかなり動揺しているのが伝わってきた。
死にそうな恥ずかしさをこらえて、私はさらに畳み掛ける。
「このまま続けられるのと、やめる代わりにおとなしく看病されるの、どっちがいいんですか」
この代償に、勝利が得られる確信があった。
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