▼ 19:こんな所で寝たら風邪をひく
この二日間、他国からの来賓をもてなすという仕事に追われ、ほとんど寝ていなかった。
だけど、彼は私よりもっと睡眠不足のはずで。
それなのに、今日もなかなか部屋へ戻っては来ない。
私より疲れているはずの彼を待っていたい。
私だけ呑気に眠ってしまうのもしのびない。
だけど、寝室にいたら、確実に寝てしまう。
そう思って、居間のソファで本を読んでいた。
――はずだったのに。
「風邪をひくぞ、起きろ」
彼の声に、意識が少しだけ戻るのを感じた。
そして、彼が戻ってきたことと、自分が眠ってしまっていたことに気付く。
だけど、なかなか意識は完全に戻らない。うつらうつらとしたまま、彼に「お疲れ様でした」と言おうとしたけれど、うまく舌がまわらない。
「おい、起きろって」
彼が私を揺する。
「ん……、は、い……いまおき、ます……からカズ、マさまは、先にしんしつに……」
どう頑張っても、まぶたが落ちてくるし、体に力が入らない。
すると、彼がひとつため息をついて、私を抱き上げた。
「世話のやける……」
いつもなら恥ずかしくて跳び起きるのに、あまりの疲れに、今日はなすがままだ。湯上がりのあったかい腕が心地いい。
ああ、でも……
彼の方が疲れているのに、私は彼に面倒をかけてしまっている。
申し訳ない、と頭の隅で思うのに、体が全く覚醒しない。
彼は、ベッドに私を降ろすと、軽く頭を撫でてくれた。
「二日間、よく頑張ったな」
それは、
それは私が言わないといけない言葉なのに。
そんな言葉を、きっとやさしい顔で言ってくれているはずの彼を、愛しく思った。
その気持ちを伝えたくて。
眠気に負ける寸前のおぼろげな意識で、私は彼に手をのばした。
服をひっぱる私に気付き、彼がこちらに屈み込む。
「どうした?」
私は、彼の首に腕を回し、なかば寝言のようにつぶやいた。
「……だいすき」
彼の動きがぴたりと止まった気配を感じた。だけどそれを最後に、私は今度こそ完全に、眠りの世界へ落ちていった。
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