▼ 17:会いたかった二日間
彼が最小限の供だけを連れてこの国を発ってから、二度目の夜が来た。
『二日で帰ってくる』
そう約束したものの、なかなか彼は帰らない。
門の前で待つと言い張ったけれど、マリカさんに止められた。
「二日、ということは明日の朝帰られるかもしれないでしょう?それまで門でお待ちになる気ですか。もし何かあった時、リンさまがふらふらじゃ困るでしょう」
とにかく寝ているようにと無理矢理寝室に押し込まれたが、不安が募るばかりでとても眠れない。
居間へ行き、ソファに腰を下ろす。
明かりをつけたらマリカさんにまた怒られそうだからつけない。
これじゃあ寝室にいるときと大差なかった。
だけど、のんきに寝転がってはとてもいられなくて。
襲う不安から自分を守るように、膝を抱えて顔を伏せる。
「カズマ様……」
こういう時、待つしかできない女の身が悔しい。男に生まれて、彼を守りたかった、と思ってしまう。
なぜか、扉の音は耳に入らなかった。
「何やってるんだお前、明かりもつけないで」
突然頭上から降ってきたその声に、私は弾かれたように顔を上げた。
「カズマ様っ!」
思わず彼に飛びつきそうになり、慌てて羞恥に動きを止める。
すると、彼がふっと笑って、手を広げた。
「ほら」
私はためらいを捨てて、彼の腕に飛び込んだ。
彼も私を強く抱きしめる。
「今帰った」
「……っ、お帰りなさい」
二日間、言いたかった言葉をようやく言えて、緊張がほどけていく。
だけど、言いたい言葉は、もうひとつあった。
「カズマ様、……会いたかった、会いたかったです」
言いながら、涙が溢れてくる。
無事でよかった。
もう会えなかったらどうしようと思っていた。
……会いたかった。
彼は、泣いている私の顔をじっと見つめる。
そして、指で涙をぬぐった。
「俺もだ」
もう涙が流れてしまわないようになのか、彼は私のまぶたにキスを落とした。
「約束通り帰ってきた俺には、褒美をもらう権利があると思うが」
にやりと笑うと彼は私の身体を優しく押した。
私はソファに座り込んでしまう。
背もたれに両手をかけ、片足をソファにのせた彼が、私の唇を奪った。
息ができないくらいに長い口づけを、何度も繰り返す。
こんなキスにはいまだに慣れないけれど、私は必死で受け止めていた。
私なんかの何倍も、彼は私に会いたいと思ってくれていたのだろう。
私は肩で息をしながら、それを全身で感じていた。
ようやく彼が私を離してくれた後、思い出したように私が「そういえば協定は結べたんですか」と尋ねると、彼は声をあげて笑った。
「馬鹿、聞くのが遅い」
少し、嬉しそうに見えたのは気のせいだろうか。
もちろんその後彼は、楽勝だ、と答えたのだった。
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