▼ 14:口実
ついこの間、恋を自覚して。
彼の、無表情とぶっきらぼうな言葉の裏に隠れた、実はわかりやすすぎる愛情に、
彼のその心に、恋をして。
……なのにどうして私は今、彼の腕や背中、首筋を、こんな気分で眺めているんだろう。
たくましいけれど、私なんかよりよっぽど色気のある、彼の身体、表情。
――『触りたい』なんて。
彼がベッドに座り、背中を向けて剣の手入れをしているのをいいことに、後ろ姿を見つめている。
「あ、」
背中に、糸くずがついている。
これほど見つめていないと気付かないくらいのもの。
思わず私は、
「カズマ様、糸くずがついてます」
そう言って彼に近寄り、背中に触れた。
別にこんな小さいの、取らなくたっていいのに。
馬鹿みたいな理由をつけて彼に触れた自分が、そして一瞬触れただけでは足りないと思う自分が、――みっともない気がする。
そんなタイミングで、
「俺に触りたかったのなら正直に言え」
彼が言う。
「……っ!」
いつものからかいだと頭ではわかっていても、図星すぎて、私はいつものように返せない。
何も言い返さない私を振り返った彼と、視線が合った。
顔が、熱くてしかたない。
すると彼は、手入れしていた剣を鞘にしまい、床に置いた。
そして私の方へ身を乗り出す。
「嘘だ。本当は、俺がお前に触りたかった」
そう言って、私の頭を自分の胸に引き寄せた。
薄い夜着越しに、彼の体温が伝わってきて、どきどきする。
触りたいくせに、触られると萎縮してしまう。私はずるい。
でも、もしかして今、彼は全部わかっていて、こうしているんじゃないだろうか。
どちらが、何を口実にして今、触れ合っているのか、わからなくなってきた。
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