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▼ 11:馬車での勝敗


ここのところ、夫婦二人での仕事が増えてきた。

晩餐に招かれたり、他国の王族や官僚が挨拶に来てそれをもてなしたり、逆に私たちが挨拶に行ったり。

今日もそんな招待を受け、私たちは少しだけ遠出していた。


「新婚の数カ月は、皆さん気をつかってあまりそういうご招待はなさらないんですよ。だから最近になってこういうお仕事が増えたんです」

私の正面に座ったマリカさんが説明してくれる。

彼は、私の隣の席で居眠りをしていた。疲れているのだろう。


彼だけの遠出の場合は、馬に乗って出掛けているけれど、私がいるときは馬車を使う。

そして、世話係としてマリカさんも同行することが多かった。


「じゃあもう私たち、『新婚』じゃないんですね」

特に甘い蜜月を過ごした覚えはないまま……というか私がそうさせたのだけど。

「でも王子殿下のリンさま溺愛ぶりは他国へも伝わっていますからね、きっと今日もいろいろと聞かれますわよ」

「はあ……人が多いとこは苦手です」


私がため息をついた瞬間、ふいに右肩に重みを感じた。

彼の頭が、私の肩にもたれかかっている。


少しドキッとするけれど、起こすわけにはいかなくて、そのままじっとしていると、今度は右手に感じるぬくもり。

彼の手が、私の手を握っていた。


そこで気付く。

「……起きてますよね、殿下」

無言。

「からかわないでください、カズマ様」

無言。


マリカさんがくすくすと笑っている。恥ずかしい。


人前でからかうのはやめてほしい。

なすがままの自分も悔しい。

私は、目を開ける気配のない彼をキッと睨んで、大きく息を吸った。

「――カズマ様ッッ!!!!」

彼の耳元で大声を上げる。


彼が跳び起きて、耳を押さえる。

「馬鹿っ!鼓膜が破れる!」

「カズマ様が悪いんでしょう!?人前でからかわないでくださいっていつも言ってるのに!」

「寝てただけだろうが!」

彼がいけしゃあしゃあとそう反論するので、私はますます頭にきた。

「寝てなかったでしょう!……か、確信犯じゃないですか!」

「だからといって何も俺の鼓膜を破裂させることはないだろう!」

「破裂なんかしてないじゃないですか!……と、とにかく、私の反応で遊ぶためにそういうことしないでくださいって言ってるんですっ!」

私がそう言うと、彼は、耳を押さえていた手を外し、「なるほど」と、つぶやいた。

「つまり、こうか。遊びじゃなくて、誰も見てないとこでならいくらでも触っていいと」

「ど、どんな理論の飛躍ですか!」

「そういうことは早く言え」

彼は勝手にそう決めつけたまま、また目を閉じてしまった。


「なっ……」

結局またからかわれてしまい、私は怒りの行き場をなくしてしまう。

どんなに反撃に出ても、かわされてしまって絶対に優位に立てない。

この人に勝とうとすること自体が、無謀なんだろうか。


「帰られてから、またひとしきり今のことをからかわてしまいますわね」


マリカさんの予想は、間違いなく当たるだろうと思った。

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