▼ 07:その、翌日
「リンさま、リンさま!聞いてくださいませっ!」
女官のマリカさんが、興奮気味に私のところへやって来た。
マリカさんは私付きの女官たちのリーダーで、私にとっては姉のようにいろいろと話せる存在になっていた。
少しミーハーなところが玉にキズだけれど。
「マリカさん、どうかしたんですか?」
私が尋ねると、マリカさんは満面の笑みを浮かべて言った。
「王子殿下ったら、リンさまのことになると地獄耳なんですってよ!」
「はい?」
「昨日、池に落ちたリンさまの悲鳴を聞きつけて、殿下は稽古を投げ出して走って行かれたそうですわ!他の誰も聞こえなかったらしいですのに、愛ですわねえ〜!」
マリカはうっとりした様子で語る。
私は、少しだけ上がった体温をごまかすように、話をそらした。
「マリカさんこそ地獄耳ですね、どこでそんな話聞いてくるんですか」
「兵士たちにです、もちろん。それからそれから!殿下はリンさまを私たちに預けられた後も、リンさまがお風邪を召されないか心配なさってたんですよっ」
そらした話が戻ってしまった。
「殿下に『心配』なんて似合わないですけど……それも、兵士から?」
「ええ!それに、私たちにも、体があったまる夕食にするようにとおっしゃって」
それで昨日はまるで冬のようなメニューだったのかと納得した。
兵士たちに何と『心配』を口にしたのかはわからないけれど、私の知らないところでの方が、彼は私にやさしいような気がする。
「殿下のやさしさは、わかりづらいです……」
思わず私がこぼすと、マリカさんはきょとんとした。
「まだそんなことおっしゃってるんですか!?周りは『この様子ならすぐにでもお世継ぎが誕生しそうだ』なんて言ってるのに」
私はぎょっとする。
「マリカさん、あの……そのことなんですけど……」
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