▼ 01:政略結婚初夜
王家に生まれたからには、結婚は義務であり、仕事のひとつでもある。
頭ではわかっていても、複雑な感情が胸に渦巻く。
私の夫となる王子様の、世間での評判は、『政治手腕は完璧』『だが無愛想で性格に少々難あり』だとか。
結婚式の間、二人が会話を交わす機会はほとんどなくて、私が彼に抱いた印象は『びっくりするくらい整った顔だ』ということくらい。
だから、今からこの扉を開けて、二人の寝室に入って、私は初めて夫とまともに言葉を交わす。
扉の前でガチガチになっている私を見たら、父や兄は大笑いするだろう。
借りてきた猫みたいな風情で結婚式に臨んだ私を見て、笑いを堪えていたくらいだから。
なかなか扉に手をかけられずにいると、
「何をしてる。入れ」
中から低い声がした。
命令口調に、反射的に従う。
「はっ、はい!失礼します!」
広いベッドでくつろいでいるのは、びっくりするほど整った顔の、政治手腕が完璧だという、無愛想な王子様。
「あ、あの、カズマ殿下……、本日よりお世話になります、リンと申します」
入口で私がしどろもどろに挨拶をすると、彼はそれには何の反応も示さず、ただ一言。
「来い」
えっ、も、もう?
私は緊張と恐怖で、身体が震えるのを感じた。
だけど、命令には逆らえず、ぎくしゃくとベッドのそばへ行く。
「入れ」
彼が毛布を持ち上げて促す。
「……う、」
反射的に一歩後ずさると、鋭い視線に射抜かれて、抵抗してはいけないのだと悟った。
おずおずとベッドに潜り込む。
一瞬の、無言の時間。
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