▼ 51:証拠
最近、一人で他国に行く機会が増えた。
最初の頃は彼が絶対に許さなかったけれど、さすがにもう新婚ほやほやではないからそれは通らない。
彼は王宮で重要な会議、私は他国へ訪問、ということは、どうしてもあった。
そんなとき彼は絶対にカザミ将軍を護衛につけてくれる。やっぱり過保護だけれど、カザミ将軍は特に話しやすい相手だから助かってもいる。
今日もそんな日だった。
最後にちょっとしたパーティーがあるからと、マリカさんが私を着飾った。
お一人でパーティー会場に乗り込むのですからその分華やかにいきましょう、とまるで戦いか何かのようにマリカさんは燃えていた。
お化粧にもいつもより気合いが入っているようで、口紅もいつもより明るい色のものを塗られた。
『よそ行きのおめかし』という感じの私の姿を見て、彼は『似合う』と小さく笑った。
そんなやりとりをして朝に別れて、王宮へ帰ってきたのは深夜だった。
『そのまま湯殿に行かれますか?』と尋ねるマリカさんに、彼に一言声を掛けてから、と答えた。
そして部屋のドアを開けると、
「カズマ様、ただいま帰り……あっ」
彼はソファの上で眠ってしまっていた。
読んでいた本は胸の上に投げ出され、ひじ掛けを枕にするように仰向けで寝息をたてている。
待っていてくれたことはすごく嬉しいけれど、風邪を引いてしまう。
「カズマ様〜?起きてください?」
肩を揺すっても、彼は目を覚まさない。
「カズマ様〜……?」
ほっぺたをつついてみたり、お腹をくすぐったりもしてみたけれど、全然起きない。
「困った、なあ……」
しかたなく、ブランケットを取りに行く。
ひとまず先に湯殿に行って、戻ったらまた起こそうと思った。
肩にブランケットをかけてから、もう一度、名前を呼ぶ。
それでも彼は、目を覚まさなかった。
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