▼ 42:お墓参り
「リンさん、ちょっとデートしない?」
王様がいきなり、私にそう言った。
「えっ?あの、どこに……?」
「お墓」
「えっ……?」
王様に連れられてやってきたのは、歴代王族が眠る墓所だった。
城から街を隔てたその先の山腹にある。
馬車に揺られること半時程で、墓所に着いた。
墓所、といっても周りには花々が咲き乱れていて、暗い感じはしない。むしろのどかささえ感じるほどだ。
「庭にこの人の好きな花が咲いてたからねー、見せてあげたくて」
王様は、亡き王妃様の墓所の前にしゃがみ込んで微笑んだ。
「根っこのついてる花を摘んできちゃったから怒られちゃうかもしれないけど。この山には咲いてない花だからねえ」
懐から小さな花を取り出して、石碑の側に置く。
そのしぐさひとつにも、二人の絆を感じるように思えた。
「あの……カズマ様とご一緒しなくてよかったんですか?私じゃなくて」
王様の気まぐれはいつものことで、よくいきなりお茶に誘われたりはする。
けれど、この場所に来ることはやっぱり特別なんじゃないだろうか。
すると王様はにこりと笑った。
「カズマは昨日私が押し付けた仕事に追われてたから置いてきちゃった」
「そ、それは……」
「それに、今日はリンさんと来たかったんだよ」
意外なことを言われて、私は首を傾げた。
「会わせたことなかったなあって思って。カズマの大事なひとなのに、ね?」
「あ……」
確かに、彼には一度もここへ連れて来られたことはないし、王妃様の命日にあった式典も、王宮の祭壇で行われた。
王妃様のお顔は、肖像画では見たことがあったけれど。
そして、王様の言葉に、少しだけ涙ぐみそうになる。
『カズマの大事なひと』――王様がそう思ってくれて、王妃様に会わせたいとも思ってくれて。
家族になっていいのだと、言ってもらえたような気がした。
「だったら私、王妃様にご挨拶したいです」
「うん、してあげて。喜ぶと思うよ」
私も王様と並んで腰を下ろす。
先に目を閉じた王様に倣い、私も静かに瞼を下ろした。
彼を生んでくれたこと、育ててくれたこと――もちろん王妃様は私のためにそうしたわけではないけれど、やっぱりそのことにお礼が言いたかった。
かなり長い間、王妃様に語りかけていたつもりだったのに、私が目を開けてからもしばらく、王様は目を閉じたままだった。
やっと目を開けた王様が、こちらを見て笑う。
「リンさん何話したの?」
「ええと、お礼、とか、これからのこと、とかです。陛下はどんなことを?」
尋ねると、王様は少しだけ顔を伏せた。
「早く、会いたい」
「え……」
「――っていうのはもう卒業してね、リンさんとカズマを守ってほしいな、とか」
すかさず顔を上げたその表情には、憂いのかけらも見当たらない。
だけど。
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