▼ 40:お酒と名前
彼は今、王様と二人でお酒を呑んでいる。
王様もそれなりにお酒は強いけれど、彼はもっと強い。どれだけ飲んでも顔色ひとつ変わらない。
「酔わないなら飲んでもしかたない」と、普段はあまり自分から飲むことはない。
だけど最近はよく王様に誘われて、お酒を酌み交わしている。
私は一度、ジュースと間違ってお酒を飲んで、とんでもない醜態をさらしてしまったことがあり、それ以来一滴も飲んでいない。
だから今日も留守番だった。
親子でどんな話をしているんだろうか、なんてことを想像しながら、私はソファで彼を待っていた。
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ガチャリとドアが開いて、彼が帰ってきた。
やっぱり涼しい顔をしている。
「おかえりなさいカズマ様、楽しかったですか?」
「ああ。父上が取り寄せたものすごく強いという酒を何杯も飲まされた」
彼は少しだけ眉をひそめて言った。
「あれは、酔いたい奴が酔うためだけに呑む酒だ。まずかった」
そんなことをいつもの顔色で言いながら、彼はベッドへ向かった。そしてどさりと腰を下ろす。
昼間も忙しそうだったし、少し疲れているのかもしれない。
彼に続いて一旦寝室に入っていた私は、水でも持って来ようと、回れ右をした。
すると、
「……おい、リン」
低い声で、名前を呼ばれた。
「はい?」
私は少しどきっとしながら振り返る。
彼はめったに私の名前を呼ばない。
彼が私の名前を呼ぶときは、そう……私が恥ずかしくなってしまうような雰囲気のときが多い。
もちろん、何の気無しに突然呼んだりもするのだけど。
彼は、自分が腰掛けたベッドの、右隣をぽんぽんと叩いている。
ここに座れ、ということらしい。
「あの、でもお水を……」
「大丈夫だ」
「は、はい……」
ちょこんと隣に座ると、彼はじっと私の顔を見た。
「……?」
無表情で見つめられているから、彼が何を考えているのか全然わからない。だけど勝手に心臓が速くなるから、落ち着かない。
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