▼ 38:嫌いな男(1)
明日開かれる晩餐会に、西の国の国王と王子が来るという。
国王は私たちの結婚式の時に言葉を交わしたことがあったが、王子とはまだ会ったことがなかった。
しかし、
「あの男には近づくな」
彼は苦虫を噛み潰したような顔をして、言った。
「え?」
「悪ふざけが過ぎる男だ。へらへらしていながら目的のために手段を選ばない。しかも他人のものを欲しがる悪癖がある」
「他人のもの、ですか……?」
彼は、上着を脱ぎながら頷いた。
「物も、人もだ。俺からはまだ何も奪えてないせいか会うたびやたらと絡んでくる。今まで、俺には奪われるようなものなどなかったからな」
ソファに上着を投げ捨てる。
「俺が『持っている』と言えなくもないのはこの国ぐらいだが、あの男は公の場でしゃあしゃあと『お前の国を寄越せ』などとふざけたことを言ってきたこともある」
「そ、それは……」
あまり仲良くなれそうにない気がする。
冗談だとしても、不穏すぎるのではないだろうか。
「俺は別に冗談は嫌いじゃないが、あの男の冗談は受け付けん」
私の思ったことを、彼が別の言葉で表現する。
そして、どさりとソファに腰掛けて言った。
「それに、今はお前がいる」
そばに立っていた私を軽く見上げる。
「わ、私……?」
「これが宝石や金ならあんな男に奪われるようなヘマはしない。だがお前は物じゃないからな」
「えっ、あの、だから私はカズマ様以外になんて……、」
私は何度も言ってきたことを繰り返す。
「そうだろうな」
彼は小さく笑う。
右手でソファ軽く叩き、『座れ』と合図をした。
「だがお前は騙されやすい。しかも単純でお人好しだ。気づいたらふらふらとあの男の手に落ちている、ということもある」
「わ、私をなんだと……」
「警戒しろと言ってるんだ」
冗談にしても大袈裟で、思わずうろたえた私に、彼は真顔で視線を向けた。
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