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しばらくそのまま沈黙が続いて、私は気付けば本に熱中していた。
しかし、ふいに背後に気配を感じたかと思うと、いきなり彼に後ろから抱きしめられた。
「っ!か、カズマ様、暑いんじゃ、なかったんですか?」
私がどぎまぎしながら尋ねると、彼は、
「暑い」
「で、すよね……」
そして、何故だか不機嫌そうに言った。
「こっち向け」
耳元で響く低い声に、反射的にびくりとしてしまう。
おずおずと彼の方を振り返ると、さっきよりもさらに距離を詰めるように抱きしめられた。
彼の素肌の感触が直接伝わってきて、落ち着かない。
だけど、彼に抱きしめられていると、ドキドキと同じくらい、ほっとする。
ゆっくりと目を閉じようとしたところで、彼がいきなり口を開いた。
「……まずい。離れろ」
私は、思いがけない言葉にぽかんとする。
「な、何でですか、これはカズマ様が……、」
「違う。お前が予想以上に薄着すぎる。このままだと襲うぞ。離れろ」
彼は、自分は私を離そうとしないまま、そんな危険なことを言った。
「っ!お、そ……!」
私は慌てて彼を押し返す。
彼は何だかほっとしたような表情だ。なんなのだろう、この状況は。
「じ……自分から抱きしめといて、なんなんですか!振り回さないでください!」
私が真っ赤な顔で叫ぶと、彼はしれっと、
「お前が薄着なのが悪い」
……自分だって上着てないくせに!
「カズマ様の馬鹿!」
照れ隠しと意地だけで、シーツを頭からかぶってふて寝する。
熱帯夜にそれはあまりに暑くて、結局私は彼が眠ってしまうまで、暑さと戦い続けるはめになってしまった。
さすがに今日のは、理不尽だと思った。
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