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▼ 21:賑わう街とお忍び夫婦


「街に視察に行くか」

彼の提案で、私たちは今、街の朝市に来ている。

故郷にいた頃よくお忍びで街に下りていた私は、この国の街の風景も見てみたいと思っていた。

それを察してくれたのか、彼が『視察』という名目で私を連れ出してくれたのだった。

もっとも、結婚前には彼もよく『視察』に行っていたらしい。



目立たないようにフードを被り、手をつないで、朝市で賑わう街を歩く。

新鮮な野菜や果物、他国のめずらしい品物などが並び、目移りしてしまう。


「私の国とは全然違います!楽しいですね、カズマ様!」

「そうか、よかった」

無表情ながら、少し嬉しそうな彼と歩く街はすごくきらきらして見える。

距離を空けて二人ほど護衛がついているけれど、普通の家に生まれて彼と出会っていたらこんな風だったんだろうか。

小さな家に二人で住んで、こうやって朝市に出掛けて、――今も十分幸せだけれど、そんな毎日にも憧れる。


そんなことを考えていると、ふいに彼が立ち止まった。

「撒くか」

「え……?」

きょとんとする私の腕をぐいっと引き、彼はいきなり駆け出した。

人ごみをすりぬけ、人気のない狭い路地裏にたどり着く。


「か、カズマ様……?」

「見張られていると落ち着かない」

そう言うと、彼は私のフードを外した。

そしてどこからか綺麗な髪飾りを取り出し、私の髪につける。

「えっ」

「さっき買った。やる」

相変わらずの無表情。

『さっき』って、いつの間に買ったんだろうか。果物に夢中になっていて気付かなかった。

確かにこれは、見られていたら恥ずかしかったかもしれない。

「あ、ありがとうございます」

照れながらお礼を言う。


彼は、髪飾りをつけた私を見下ろして軽く微笑んだ。

「可愛い」

ますます照れてしまうけれど、嬉しくて、私も自然に笑顔になる。

「……きっと、カズマ様が、私のために選んでくれたからです」


そう言うと、一瞬の沈黙の後に、気付けば彼に抱きしめられていた。

いつもよりも、きつく腕を回されている気がする。

「カズマ様、く、くるしいです」

抗議すると、彼は一言、

「馬鹿」

そう呟いた。


しばらくそうしていただろうか。
やっと彼が私を解放してくれた。

軽く髪飾りに触れてから、私に再びフードを被せる。

「そろそろあいつらを安心させてやらないとまずいだろうな」

ひとつため息をつき、彼は私の手をとって歩き出した。

少し歩いて、さっきまでいた大きい通りに戻る。


歩くたびに揺れる髪飾りに、つかの間の『二人きりの時間』が思い出されて、私はいまさら鼓動が速くなるのを感じた。


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