▼ 18:恋敵=犬
ユキは、予想以上の大型犬だった。
だから、私たちの部屋では狭すぎて、外で飼われるようになってしまった。
少し寂しかったけれど、ユキはなんだかんだでしょっちゅう私たちの部屋へ遊びに来る。
もちろん、女官たちに頭から足の先まで丸洗いされてしまうのだが、それでも構わないらしい。
今日もユキは私の部屋に来ていた。
私も今日は仕事がなかったから、暇を持て余していた。
ユキとじゃれあっているうちに、だんだん眠くなってくる。
それに気付いておとなしく寝そべるユキの、毛並みをなでる。
「ふわふわの枕みたい……」
頭をユキのお腹に預けた。
私がお腹に乗ってもびくともしないほど、ユキは大きくなった。
ふわふわの毛並みを頬に感じながら、だんだん意識を手放していく。
雲の上で昼寝をしているみたいな気分だった。
「気持ちいい……」
私が、完全に眠りに落ちてしまいそうだった、その瞬間。
「おい」
低い声が頭上から降ってきて、私はハッと目を覚ます。
「カズマ様」
見上げると、彼が不機嫌な顔で私を見下ろしていた。
「なにが『気持ちいい』だ。ユキを枕にするな」
「え、ご、ごめんなさい」
すると、ユキが立ち上がって、私の顔をぺろぺろとなめた。
「わっ、ユキ!くすぐったいってば!……ほ、ほらカズマ様、ユキも嫌がってなかったですよっ?」
「……そういうことじゃない」
言うと、彼は私の腕をつかんで立たせた。
「犬だと思って調子にのりやがって」とわけのわからないことをつぶやきながら、ソファに座る。
そして、
「寝ろ」
自分の膝をぽんぽんと叩いて、彼は言った。
ええと、それはつまり、王子殿下のひざまくらで寝ろと……?
「む、無理です!」
「何でだ。ユキの腹は枕にできるのにか」
「そ……そういう問題じゃなくて……」
「なんだ」
「いえ、あの……カズマ様にひざまくらなんて、ドキドキして眠れないです」
正直に言うと、彼はふっと笑った。
「勝った」
そう言って、ユキを見る。
ユキは首を傾げていた。
「あの、カズマ様……?犬に、やきもちを……?」
私が笑いをこらえながら尋ねると、彼は仏頂面になった。
「俺以外の奴に『気持ちいい』なんてふざけたことを言うからだ」
な、何だかそれは、語弊があるような……なんて言うとまたいろいろ追及されそうだから、私は黙って真っ赤になるしかできない。
しかたないので、ひざまくらは無理だけれど、彼の隣に座る。
「あの、カズマ様とくっついてるのが、私いちばん幸せですから……」
精一杯、それだけ言うと、彼はまた「勝った」と笑った。
勝手に恋敵にされてしまったユキは、しばらくすると、あきれたようにひとりで寝てしまったのだった。
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