my beloved | ナノ


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「何をおっしゃってるんですかお妃様!王子殿下はお妃様のことを溺愛してらっしゃるではありませんか!」

女官の一人が高い声を上げた。

毎日することがない私は、時々女官たちとお茶をしたりする。

厨房にこっそり入ってクッキーを焼き、紅茶をいれてお喋りに興じる。


「慣例では夫婦別々の部屋でお休みになるものですのに、陛下に無理を言って同じ寝室になさったんですから!」

私はクッキーを取り落とした。


この国には他に『妃』がいないから、知らなかった。

王妃様は遠い昔に亡く、王様には側室もいない。


毎晩背中を向け合って眠っているというのに。

無理を、言って?
想像がつかなかった。


「そんなに愛されてらっしゃるのに、殿下の魅力がわからないだなんて、お妃様、殿下がお泣きになりますわ!」

むしろ自分が泣きそうな表情で言う女官に、私は呆れた。

「マリカさん、殿下が泣くなんてありえないですよ。今日だって私にそれは冷たい目で『お前は馬鹿か』って言ってきたんですから」


「お妃様!お妃様は、ふだんはクールな殿下の見えない優しさにもっとドキドキするべきですわ!」

―――結局、マリカさんに説教されてしまった。



****


「お前はまた、自分でクッキーを焼いて女官に振る舞ったのか」

先にベッドに入っていた彼の言葉に、私はぎくりとして振り返った。

「ご存知で……」

「執務室から見えた」

彼は気付いていないと思っていたのに、『また』ということは、以前からばれていたらしい。


「あの、いろいろとわきまえてない、ですか……」

「そういうことじゃない」

彼は、無表情でこちらを見る。

「なぜ俺より先に女官が食っているのかと聞いている」

「えっ!あの……食べたかったんですか!」

慌てて問うと、彼は眉間にしわを寄せた。

「そういう問題じゃない」

そしてその目でしばらく私を見た後、無言で背を向け横になってしまった。




『陛下に無理を言って同じ寝室に』

マリカさんの言葉が蘇る。


なんというか、どうやら、本当に私はこのひとに好かれているらしかった。



私の頭の中で、彼の性格を記した項目に『意外とやきもちやき……?』が追加された。

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