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『俺は遠慮も容赦もしない』
命令の後に伝えられていた、警告のような一言。
彼に触れられると、幸せな気持ちになる。
だけど、『遠慮』や『容赦』が取り払われてしまったら、どうなってしまうのか。
我ながら、わがままが過ぎるとわかっている。
世継ぎを生むことが、妃の仕事のひとつなのだから、『その先』を『怖い』なんて妃失格だ。
第一、気持ちが向くまで待ってくれている時点で、甘えている。
でも、気持ちを伝えるなら、今の不安や本音も、正直に白状してしまいたかった。
「好きだと言われたかったら、我慢しろということか」
彼は鋭い目つきで私を見る。
「この俺に交換条件とは、いい度胸だ」
まるで物語の悪役のような笑顔を見せて、彼は言った。
……こ、怖い。
しかし、彼は扉についていた手を下ろし、私から視線を外した。
「覚悟ができるまで待ってやる」
まさかの言葉に、私は力が抜け、涙まで出そうになる。
「カズマ様……」
「ありがとうございます」と言いかけたところで、彼が両手で私の頬を覆った。
少し、私を上向かせて、
「だから、早く言え」
安堵したのもつかの間、忘れかけていた恥ずかしさがこみあげてくる。
そんなに、見ないでほしい。
恥ずかしくて倒れそうになる。
だけど、言いたい。
早く、伝えたい。
「……カズマ様が、好きです」
やっとの思いで、声をしぼり出す。
「俺もだ」
その言葉の余韻が消える前に、唇が重なった。
目を閉じるひまもなくて、顔を真っ赤にするしかできない私に、彼が囁く。
「……これくらいは、させろ」
そうして、もう一度、キスをした。
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