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短時間の滞在を終えて、私たちは帰途についた。
本当に少ししか会えなかったけれど、思った以上に元気な姿を見られて、私は心から安心した。
馬を操る彼の背につかまって、私は言った。
「カズマ様、今日は本当にありがとうございました。ミサキ兄さまに、……アオイ兄さまにも両親にも、会えて本当に嬉しかったです」
彼はひたすらに駆け続けながら答える。
「俺も、家族といるお前が見られてよかった。……それに、あの場であんなことを言うとは思わなかった」
『大事にされてます』
自分の言葉を思い出して、頬が熱くなる。
家族の前で、思わず口に出してしまった、実感。
「本当の、ことだから、……です」
つかまる腕に少し力を入れたことに、彼は気付いただろうか。
彼は何も答えなかった。
後ろ姿が少し、戸惑っているように見えたのは、気のせいかもしれない。
馬は風を切って駆けていく。
「かなりきつい」と言われていたはずなのに、乗っていてもほとんど疲れは感じない。
彼の器用さとやさしさを思い知る。
私は彼の背に頭を預けて、目を閉じた。
蹄の音だけが、耳に響く。
初めて、はっきりと、
好きだと、思った。
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