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彼とは初対面のミサキ兄さまは、彼を見てひとつため息をついた。
「あー、こりゃ負けたわ!」
「負けた?顔が?」
私が首を傾げると、ミサキ兄さまは憤慨した。
「顔もそりゃ負けてるけどな!そうじゃなくて……昔、俺よりリンを大事にする奴じゃないと嫁にはやれないってよく言ってたろ?」
もちろん、王族の結婚は国のためのものであり、そんな理屈は通らないと皆わかっていた。
でもミサキ兄さまは、冗談めかしてたびたびそんなことを言っていたのだ。
「そういう意味で、負けた!カズマ殿下、リンをよろしくお願いします!」
突然がばっと頭を下げるミサキ兄さまに、彼は無表情ながら驚いている様子だった。
だけど、
「……大事にします」
彼は、私がめったに聞いたことのない穏やかな声でそう言った。
だからなのか、私も思わず。
「大事に、されてます」
そう、口に出していた。
彼が、さっきよりもっと、驚いた顔で私を見る。
「だから、結婚式から帰ってそう言ったろ?見所のある奴だって」
アオイ兄さまが妙に偉そうに、ミサキ兄さまに言った。
二人とも彼より年上ではあるけれど、『奴』だなんて失礼な。
だけど、ミサキ兄さまといいアオイ兄さまといい、なんで彼を見ただけで、『負けた』とかそんなことがわかってしまうのだろう。
でも、聞いてもきっと「男にしかわかんないんだよ、こういうのは!」なんて訳知り顔で言われそうだ。
気付けば、兄二人と彼が、私をおいてきぼりにして、剣術の話題に花を咲かせていた。
くるくるとよく表情を動かすミサキ兄さま、落ち着いた態度のアオイ兄さま、そして無表情の彼。
タイプは全然違うのに、妙に気が合っているのがなんだか嬉しい。
私は『お見舞い』という目的を忘れ、三人が話しているのを、笑顔で眺めていた。
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