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だけど、ミサキ兄さまがもしも今にも死にそうだったら。
そう考えると、怖くて怖くて、涙がますます溢れる。
泣き声をこらえきれないでいる私を、彼が強く抱きしめた。
片手で頭を引き寄せ、もう片方の手は、あやすように私の背中をさする。
「大丈夫だ、大丈夫……」
彼はひたすら、『大丈夫』を繰り返す。
私は彼にしがみついて、しゃくり上げながら頷く。
だんだん、自分が落ち着いていくのがわかった。
彼が、半分持っていてくれている、そんな気がした。
一緒に心配してくれているんだ、と。
私の意識がばらばらになってしまいそうなのを、彼が包み込んで、守ってくれているようにも思えた。
半時ほど、そうしていただろうか。
扉が叩かれ、さっきとは別の兵士が入ってきた。
「ミサキ殿下のお怪我、お命に別状はないそうです!傷はかなり深いようですが、急所は外していたと……」
私は、一気に力が抜ける。
私を抱きしめたままの彼も、大きく息を吐いた。
そして、兵士の方へ向き直ると、いつもの調子で言った。
「明日、ミサキ殿下の見舞いに伺う。明日の予定は全て延期するよう関係各所に伝えろ」
私は、思わず彼を見上げた。
彼は、私の頭をくしゃっと撫でて、少しだけ笑った。
「その手紙は、直接渡せるから今日中に完成させておけ」
机の上に視線を向けて言う。
そして、檻に入っていたユキを抱き上げ、私の腕に抱えさせた。
さっきとは違うぬくもりが、腕の中に宿る。
「夕方までには、終わらせる」
彼はそれだけ言うと、何事もなかったかのように部屋から出ていった。
仕事を置いて来てくれたのだと、いまさら気付く。
「カズマ様……」
何も言わないやさしさを思うと、また涙が出てきて、私は強くユキを抱きしめた。
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