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かける言葉を見失って、口ごもる私の手に、王様が自分の手を重ねた。
「君に出会って、あの子は、愛情を与えることに喜びを見出だしたみたいだ。その前に、受けとることを欲してもいいはずなのに」
受けとる機会が失われた『無条件の愛情』。
彼は、それを欲しがることはなく、私に与えてくれている。
例えば、妻となる人物に『母親』を求めても無理はないはずなのに。
それは、父親からの愛情をちゃんと知っているからだとも思う。
だけど、それだけじゃないのかもしれない。
「――だから、君は、あの子に、愛されてやってくれないか」
手を重ねたまま、王様が言う。
まっすぐに私を見て。
「君にとっては政略結婚だ。愛してやってくれとは言わないよ。
ただ、愛されてくれるだけでいいんだ。
……何が違うのかと言われると、困るんだけどね」
王様は、最後に、いつもの穏やかな笑顔を見せた。
少し外が騒々しくなって、彼が帰ってきたのだとわかる。
王様は、私の返事を聞くことなく、
「カズマに見つかったら妬かれてしまうから、そろそろお開きかな。また紅茶を飲みにおいで」
そう言って、私の頭にぽん、と触れた。
私は謝辞を述べて部屋に戻る。
――『それならなおさら、私もあの人を愛したいです』
あの時、そう言いそうになった自分に戸惑ったけれど、その気持ちをごまかすことはできなかった。
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