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「まあでも、結果的にリンさんみたいなかわいらしいお姫様が来てくれたわけだから、私にとっても良かったかな」
そう言って屈託なく笑う王様。
若い頃は、彼以上に女性に放っておかれなかっただろう、と思った。
だけどきっと、その心はひたすら亡き王妃様に向けられていた。
だから、側室も、次の王妃も迎えなかったと聞いている。
「あの子は早くに母親を亡くしている」
ちょうど、私が考えていた王妃様のことを、王様が口にした。
「私も、もちろんあの子を大事に思っているけれど、それ以前に、次期国王として教育することを優先させる必要があった。カザミ将軍もそうだ。
国王として立派に立たせてやるための教育が、愛情の示し方だった。
だからあの子は、無条件の愛情、みたいなものを知らないで大きくなったのかもしれないと、今では思うんだよ」
少し苦しげな表情で、王様はそうつぶやいた。
『気持ちに答えが返ってきたのは、初めてだった』
いつかの彼の言葉を思い出す。
彼とその周りにとって、第一優先は『国のため』という理性と、現実。
女に生まれた私には、完全に共感することはできないけれど、王族として、その重さと辛さは理解できる。
「……カズマ殿下は、陛下のことを大切に思ってらっしゃいますし、尊敬もしてらっしゃいます」
私は、それしか言えなかった。
「うん、わかってるよ、ありがとう。それでもね、やっぱり『父親』としての後悔はあるんだ。母親がいなかった分、余計ね」
父親は父親でしかなくて、母親とは違う。代わりにはなれない。
だけど、だからこそ王様は後悔しているのだろうか。
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