▼ 10:夫の父親
彼が留守にしていた昼間、王様にお茶に誘われた。
「私、紅茶にだけは凝ってるんだ。おいしいでしょう?」
「はい陛下!こんなおいしいの初めて飲みました!」
にこにこと穏やかに笑う王様は、それだけではとても、彼の父親には見えない。
「どう、リンさん。カズマはちゃんと君に優しくしてるかい?」
王様は、私に尋ねた。
「あ、はい……、意地悪ですけど……優しい、です」
私が少し照れ気味に答えると、王様はくすくすと笑う。
「意地悪かあ、リンさん、愛されてるねえ」
よく意味がわからない。
王様はその説明はせず、話を続けた。
「実はね、私は正直、外の国の姫をもらうより、国内の有力貴族の娘さんが妃になる方がいいとずっと思ってたんだよ。他国と、婚姻という形で結び付かなくてもこの国はやっていける、ってね」
「……ええ、わかります」
私は少し俯いた。
それはこの国の情勢を見れば、当然のことだった。
婚姻での結び付きは、お互いを縛ることにも繋がる。
そんなことをする必要はこの国になかったし、私の国とそこまでして結び付く利点はあの国にあるのかと、父たちにも首を傾げていた。
もっとも私の国からすれば利点があったため、話を受けたのだが。
王様は、ここでまた笑って言った。
「だけどカズマが、それはみごとに、君の国と結ぶ利点を説いてね。穴のないその主張に私は完全に納得させられて、気付けば君の国に婚姻の話を持って行っていたんだよ。
でもまさか、それが自分のためだとは、君が嫁いでくる直前まで気付かなかったんだけどね」
最後は、ククッといたずらっぽく笑う。
「欲しいものを手に入れるために、自分の持ってるものを総動員したんだろうね」
いまだに、他人から聞かされる『お妃を溺愛する王子』の話は、変な気分になる。
私たちは一体、周りからどう見えているんだろうか。
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