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「そのお妃様はどんな処分を……?」
「この件は一応、表沙汰にはされてないからねえ、そこまではまだわからないけど……噂ではお妃が『イリヤ殿下に無理強いされた』って主張してるらしいし、輿入れの経緯が経緯だから処分しないって可能性もあるかもね、あの国なら」
「西はこのところ乱れきっているからな」
それでもさすがに、イリヤ王子に処分を下さないわけにはいかなかったのだろう。
誘われたのだとしても断ることはできたのに、受け入れて関係を持ったのはイリヤ王子自身だ。
「想像以上の馬鹿だったな、あの男は」
彼はこめかみを押さえてため息をついた。
「自棄になるにしても最悪だ」
私たちの感情は別として、西の国との連携は順調だった。そこに水を差された形になってしまったのだ。
そして私個人としては、今回のできごとの遠因だと言われているようで、いわれのない罪悪感に襲われてモヤモヤする。――それはだんだん怒りに変わってきた。
「……王族として、というよりそれ以前に、どれだけ子どもなんでしょうか」
こんな人にさんざん振り回されていたと思うと、腹が立つやら自分が情けないやらで、泣きたくなってくる。
それでもまだ、あの人への怯えが自分の中から消え去っていないことも、情けない。
関わりたくないのに、これで断ち切れる気がしない。
「妹君が継承権一位になるのでしょうか」
彼と王様の会話は続いていた。
「いや、妹君は輿入れが正式に決まったばかりだよ。やっぱりこちらに婿入りしてください、なんてさすがに言えないでしょう」
「ということは、あの男の叔父、ですか」
「そうなるね。私はあの国王より弟君の方が好ましいから歓迎するけどね。早く譲位しないかなって思うくらい」
「……父上」
「まあとりあえず今度の会議、進展はないだろうね。引き継ぎで終わっちゃうでしょう」
「無駄な時間を……」
彼はまた、ため息をつく。
「妹君の婚約発表をしたくてリンさん共々呼ばれたんだろうけど、この状況ではどうなるやら、だねえ」
「あの男は妹君を溺愛していると言う割に苦労ばかりかけているようですが」
「そんなんだから嫌われるんだよねえ」
――二人の話題は、妹君の嫁ぎ先と婚姻の影響へ移っていった。
話を聞きながらも、私はどこかでイリヤ王子のことを考え続けていた。
彼に歪んだ憧れを抱いているイリヤ王子。
どうしてそんな感情を抱くようになったのだろう。二人は全く似ていない。
もちろん似ていないから憧れるのかもしれないけれど――それにしたって、あまりにも違いすぎるのだ。
イリヤ王子は彼に何を求めているのだろう。
単純に、知りたいと思った。
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