▼
「えええええっ!?お、お二人の間には、ま、まだ何も……ッ!?」
「ま、マリカさん、声が大きいですっ!」
私が、初夜に起きたことをマリカさんに打ち明けると、彼女は相当の衝撃を受けたようだった。
しかし、ふっと窺うように目を細めると、マリカさんは低い声で言った。
「……それで、リンさまは、まだ殿下のことをお好きではない、ということですか?」
「え……っと、」
口ごもる私に、マリカさんはさらに続ける。
「数カ月一緒にいて、殿下に、何の気持ちも持っていらっしゃらない、なんてこと、ありませんよね?」
「……だけどマリカさん、好かれたから好きになるなんて、なんだか失礼だと思いませんか……?」
私は、ここ最近考えていたことを、マリカさんに逆に尋ねた。
いつか自分が、好かれていることに甘えて、彼を好きだと錯覚してしまったら……と、少し不安になっている。
それは、あまりにも彼に対して都合がよくて……失礼なんじゃないかと。
すると、マリカさんは小さく吹き出した。
「リンさま、考えすぎですわ」
そして彼女は、やさしく私の手を取って言った。
「リンさまが初めて会ったときから、殿下はリンさまをお好きだったんです。
だからリンさまは『リンさまを好きな殿下』しか知りようがないじゃないですか。
それもひっくるめて、殿下自身を見て、気持ちを育てていかれれば良いと思いますわ」
「ひっくるめて……カズマ様自身を……」
マリカさんは、私を見て、またくすりと笑った。
「私思いますけど、『失礼』だなんてそんな言葉でストップをかけてらっしゃる時点で、殿下はけっこう脈ありですわね」
「えっ」
「ご心配なさらなくても、私が読んだ物語で政略結婚をした夫婦は、100%の確率で恋に落ちてましたわ」
楽しげに断言するマリカさんに、私は苦笑した。
「なんだかいろいろと違う気がするんですけど……」
prev / next
(2/2)