my beloved | ナノ


▼ 


「馬鹿、どうでもいい女の喘ぎ声を聞いたところで興奮するか。安宿に泊まればよくあることだ」

「だ、だったら……」

「だが、」

と彼は囁いた。


「過剰に反応してる奴がいたからな。それを見ていたら欲情した」

「よっ……!」

「このままだと、こちらの声も隣に聞こえるだろうな」

いまや、隣では声だけでなくベッドが軋む音までもが響いていた。

「い、いやっ……!」

思わず両手で口を塞ぐ。


そうすることで、抵抗する手段を失ってしまった。



「リン、」


わざとだ。

わざと耳元で名前を囁いて、彼の手は私の身体に触れた。


「っ……!」

私のすべてを知っている彼は、指先で私を弄ぶ。

こらえきれなくなるぎりぎりのところで、手加減をしているのだろう。


「リン、我慢しなくていい」

甘い声が誘惑する。

首を振って、抵抗する。


声をこらえて私が身を竦めるたびに、彼の手は容赦なく私を追い詰めていった。


「か、ずまさま、……も、いじわる、やめて」

抑えた声で、許しを請う。


「意地悪じゃない」

彼は、目元にかかる私の前髪を、優しく払いながら、囁いた。


そんなことば、信じられない。

例えば、さっきから彼の表情に余裕がなくなっている気がするからって――だからってそんなことば、信じられない。



「声はこらえていい。……顔、隠すな」

口元を覆っていた両手を引き剥がされて、代わりに彼の指が口のなかに押し込まれる。


こらえていい、なんて、やっぱりさっきまでのは意地悪だったのだ。


彼のしなやかな指先が、舌をなぞる。


「……っあ、」

声を上げてしまいそうになり、力を込めて彼の指をくわえた。


もうやめて、と見上げた先に。


「……悪い。俺が、無理だ」


――苦しげなその表情に、身体の奥がひどく疼いた。



それからはもう、何がどうなったのかわからない。


手加減を忘れた彼に触れられながら、必死に声をこらえ続けた。

意地悪していてくれた方がまだよかった、と叫びたくなったことは覚えている。


いつのまにか隣の声は止んでいて、聞こえるのは彼の乱れた息遣いだけになって――何度も何度も波にさらわれそうになるのを、私はどうにか耐え続けたのだった。



****
 


翌朝。

「もう二度と町の宿屋には泊まりませんから!」

半泣きで宣言して部屋を出ると、兵士二人の爽やかな笑顔に迎えられた。



「おはようございます。お妃様、昨夜はよく眠れましたか?」


「…………」

ばつが悪いのをごまかすために彼を睨んでやったのだけれど、素早く目を逸らされる。



「……二度と、泊まりませんから」

彼の背中に向けて、恨みがましく繰り返した。



special thanks:さくとさん



prev / next
(3/3)

[ bookmark /back/top ]




「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -