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▼ 59:宿での一夜

この先の道で岩崩れがあり不通、との知らせを受けたのは夕刻のことだった。

彼と私は馬車に揺られていた。今夜の滞在先に通じる唯一の道だった。


「連絡の取りようがないが、先方にもこのことは伝わっているだろう。朝一番に出発すれば昼の会議にぎりぎり間に合う。――お前は着いたらすぐ着替えろ、夕方からの催事には間に合うだろう」

問題は今夜の宿だな、と彼は眉を潜めた。


「引き返して王宮に戻るにしても、これからとなると野宿しかなくなってしまいます。この先を少し行けば町があり、宿屋もありますが……お二人がお使いになるような宿では……」

兵士が言いにくそうに報告する。


「こいつを野宿させるわけにもいかないだろう。この際、屋根があればどこでもいい」

「私も大丈夫です」


身分がばれてしまってはいろいろとまずいから、服を調達した上で、四人ずつに分かれてそれぞれ違う宿に泊まることになった。



****



なんとか二部屋空いていた。

彼と私が同室、兵士二人がその向かいの部屋になった。


本来ならこんなことは許されないのだろうけれど緊急事態だから仕方ない。こんな時、彼が並の兵士よりも腕が立つことが心強い。

もちろん、兵士二人は「交代でさりげなく廊下で見張りをいたします!」と言ってくれていたけれど。



「食事は口に合ったか?」

「はい、新婚旅行のときに寄ったお店を思い出しました」

「そうか、それならいい」


さすがに、部屋はかなり狭く感じる。二人部屋だから一応ダブルベッドなのだろうけれど、窮屈そうだ。

くっついて寝るしかないサイズだ、と落ち着かない気分になる。……王宮でも朝起きたらだいたいくっついているけれど。

しかも、本当にベッドくらいしかない部屋だから、ソファなんかも当然なくて、浴室を使い終えた私たちは、ベッドの端になんとなく距離を空けて腰掛けていた。


「隣の部屋の足音、聞こえるんですね」

「安宿だからな」

「なんだかこっちも気になって、こそこそしちゃいますね」

「騒ぐこともないが、そこまで気を遣わなくても隣は気にしていないだろう」


とはいえ、やはりなんとなく声を潜めて話した。

町の人たちが夜通し岩をどける作業をしてくれるらしいこと、朝までには片が付きそうだということ。兵士がさりげなく宿屋の主人に聞いてくれたらしい。


「ありがたいですね」

「そうだな。ここまで来て引き返すのも癪だ」

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