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私は思わず、微笑んでいた。
「カズマ様といると、確かに自然体でいられないときもあります」
言うと、彼の背中はぴくりと動いた。
「……」
「だけどそれもぜんぶ、ほんとの私です。自然体でも不自然でも、私なんです。それをすべて見てるのは、カズマ様だけです」
自然体でいられないときは、彼にドキドキさせられているときで。
「他の人には見せたりしません。カズマ様だけです」
少し躊躇ってから、彼の髪に手を伸ばした。
「いつもみたいに『他の男を褒めるな』って言ってください?カズマ様」
慎重に髪を撫でる。気持ちが伝わるように。
「ハヅキお兄さまは優しくて、お話も面白くて、手先も器用で、昔シロツメクサで花冠を作ってくれて、いつも笑顔で、怒ったところなんて見たことなくて、……!」
言葉を止めるように、撫でていた手を、掴まれた。
「……笑うな」
「だって、……ふふっ」
思い切り不機嫌な顔で起き上がった彼を見て、なんだか嬉しくなる。
「それでも私は、ハヅキお兄さまじゃなくて、他の誰でもなくて、カズマ様のことが大好きなんです。――知ってますか?」
「……知ってる」
悔しがるように、彼が私を抱きしめる。
「覚えてろよ」
「ふふふっ」
「だから笑うな」
顔を上げると、苦虫を噛み潰したような表情で私を見下ろす彼と目が合った。
両手で私の頬を挟んで、乱暴にキスをする。
『仕返し』を喰らうことになるのだろう。
少しの後悔と、少しの安堵。――そして結局は、幸せな気持ちで彼に身を委ねた。
彼はずっと、不機嫌な顔のままだったけれど。
****
『私の初恋は、たぶんカズマ様です』
はじめに言いそびれた言葉は、最後まで伝えることができなかった。
恋の意味さえ知らなかった私に、それを教えてくれたひと。
伝えたら、喜んでくれただろうか。呆れただろうか。
だけどやっぱり恥ずかしいから、胸にしまっておくことにした。
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