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私たちのために用意された寝室に引き揚げ、湯浴みを済ませて戻ると、珍しく彼が既にベッドに入っていた。
しかも、私に背を向けるようになる体勢で。これも珍しいことだった。
「カズマ様、もしかして体調が悪かった、ですか……?ごめんなさい、気づかなくて、」
ベッドに正座するようなかっこうになって、彼の背中に声を掛ける。
少しの間があったから、寝ているのかと思ったけれど――
「……悪かったな」
「え?」
「『ハヅキお兄さま』と似ても似つかない夫で」
「えっ、ええっっ!!??」
もしかして今私が目にしているのは――『拗ねるカズマ殿下の図』だったりするのだろうか。
誤解はとけたはずなのに、これは……ふて寝?
可愛い、とときめいたのは一瞬のことで、我に返った私は焦った。
「か、カズマ様、だから違います!私は……私の、」
「わかってる、お前がどうというわけじゃない。俺が勝手に他人と自分を比べて落ち込んだだけだ」
「比べ……落ち込……!?」
彼の口から出たとは思えない単語の連続に驚愕し、私は言いかけた言葉を続けられなかった。
「夜会などで言い寄ってくる頭の軽い男たちは――不愉快だが――相手にしていない」
だが、と背中を向けたまま彼は呟いた。
「お前が慕っている男、それも自分と正反対というのは……面白くない」
「カズマ様……」
「お前を強引に妻にしたことを後悔はしないが――ハヅキどのとお前は似ている。だからああいう男のところに嫁いでいたら、もっとお前が自然体で毎日を過ごせていたんじゃないかと……思わなくもないだけだ。だからどうということはないが」
いつになく饒舌なのは、私に表情を見られる心配がないからだろうか。
「結局は無い物ねだりだ。俺はハヅキどのには逆立ちをしてもなれないからな」
『自信家』な彼が、意外とそうでもないことは、もう知っている。見慣れてはいないけれど。
それは決して、嫌なことではなくて――
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