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「やっぱりねー、普段から恥ずかしいことばっか言ってるくせしてああいうことは言えないんだよねえ、カズマ。我が息子ながら恥ずかしい奴だよ、うんうん」
王様はひとり納得したように頷いている。
私には何がなんだかさっぱりわからない。
『ああいうこと』というのは、さっき彼が言った言葉のことだろうけれど、私にはそれがわからないのだから、やっぱり、わからない。
それにしても、『照れた』というのは本当だろうか。
以前も似たようなことがあったけれど、あの時よりもさらにわかりにくい。あの時は本人が『照れる』なんて言って、言いかけていた言葉をやめてしまったのだった。
「あの、カズマ様は何て……?」
「え、そんなの私の口からは恥ずかしくてとても言えないよ」
王様は右手をひらひらさせながら笑った。
「えっ、一体どんなことを……」
バルコニーからの風景を見た感想、ではないのは間違いないようだ。
だったら、何て――?
その答えを知りたいと思ったけれど、訊かない方が身のためだという気がした。
とんでもなく、恥ずかしい気持ちになってしまう予感がしたからだ。
それでもきっと、私は彼に、またひとつ、何か特別なものをもらったのだろう。
だからせめて、あの時あの言葉を私にくれた彼の表情や、夜風の心地よさ、異国の美しい響きを、私はずっと覚えていようと思った。
――それからしばらくの間、彼は『父上に脅迫されている』と頭を抱えて過ごしていたのだけれど、それはまた別の話だ。
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