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けれど、
「カズマ様?」
彼は何故か、私が指差す先を見ない。
もの思うようにじっとこちらを見下ろしている。
聞いていなかったのだろうか。
「あの、」
「――――――」
軽く息を吸い込んで、彼が静かに紡いだ言葉は、もちろん私には理解できなかった。
いくつかの接続詞が聞き取れただけだ。
ただ、おそらく三つか四つの文章を繋いだその言葉たちは、とても美しく、私の耳に届いた。
「カズマ様、今のは何て言ったんですか?」
私は少し戸惑いながら尋ねた。
彼があまりにまっすぐ、こちらを見つめていたからだ。
と、
「…………知らん」
「え?」
突如、私から勢いよく目を逸らした彼は、きょとんとする私に素早く背を向けた。
上着の裾を翻し、彼はすたすたと室内に戻っていく。眉間に皺が寄っていた、ような。
「もう一仕事してくる。お前は好きなだけそこにいろ」
「えっ?あのっ、カズマ様っ……?」
ぽかんと口を開けて突っ立ったまま、私は彼の後ろ姿を見送った。
突然の彼の行動に、疑問符ばかりが頭上に浮かぶ。
「ええと……?」
すると、室内のカーテンの陰から押し殺すような笑い声が聞こえてきた。
「え、あっ、陛下!?」
「ごめんごめん、見つからないように立ち聞きしようと思ってたんだけどさ、面白くて」
ひょいと顔を覗かせたのは王様だった。
「み、見つからなくても立ち聞きはやめてください……」
「あはは、ごめんね」
全く悪びれる様子はない。
「あの、陛下、今のは一体、何だったんでしょう?」
立ち聞きされていたのは恥ずかしいけれど、この際、王様に尋ねてみることにした。
父親である王様なら彼の不可解な行動の理由がわかるかもしれない。
「えー?照れたんじゃない?」
「……え?」
王様の答えは、さらに不可解だった。
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