my beloved | ナノ


▼ 57:異国の言葉


彼が『完璧』と評される理由のひとつは、語学力だ。

私が全く理解できない国の言葉も、彼は涼しい顔で操っている。

父上には及ばない、と彼は言うけれど。



今日も彼は、遠い国から来た使者と、通訳もなしに流暢に会話をしていた。

もちろん私だって王族としてそれなりの教育は受けている。それでも私には一言たりとも理解できなかった。



「カズマ様、一体何ヵ国語話せるんですか……?」

夕涼みのバルコニーで、私は力なく尋ねた。

彼を見ているとたまに、自分が王族を名乗っていることが恥ずかしいような気になってくる。

「父上に比べれば大したことはないぞ」

私の無力感を察したのか、そんな返答をくれる彼だけれど、それは全く慰めになっていなかった。


「すごく響きが綺麗な言葉ですね」

私は話の矛先を変えることにした。

事実、とても響きが美しくて、意味がわからないながらも、『音』として聞いていたい言葉だと感じたのだ。


「ああ、そうだな。吟遊詩人は好んであの国の言葉を使うと聞いたことがある」

「素敵ですね。話せるようになりたいなあ」

「文法自体は難しくない」

彼は、私でも話せる国の言語を例に挙げ、それとよく似ていると言った。

そして、いくつかの簡単な単語と接続詞を説明してくれる。

私は、自己紹介と、ユキのことを紹介できる単語をいくつか覚えた。(『毛玉』はとても可愛らしい響きだった)


言葉を覚えるのは嫌いじゃない。私はだんだん楽しくなってきた。


「じゃあ、カズマ様、何かちょっと長めに話してみてください!」

「そんなことを唐突に言われても困る」

「ええと、じゃあ、そうですね……あ、今のこの風景を見て、私に何か言ってみてください!」


折よく、陽が落ちた空に綺麗な月が姿を見せたところだった。

もうすぐ満月だ。月明かりが辺りを明るく、それでいてひそやかに照らしている。

見晴らしのいいこのバルコニーから見る風景は、とても綺麗な文章になりそうに思えた。


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