▼ 58:初恋
アオイ兄さまのお妃様――つまり義理の姉に赤ちゃんが産まれた。
お祝いのために、私は彼とともに久しぶりの里帰りをしている。
久しぶりに会ういくつもの顔、それから、生まれたばかりの新しい顔。全てが、私を幸せな気持ちにさせた。
お義姉さんも元気そうで、安心する。
国民へのお披露目や様々な儀式がすぐに始まるから、アオイ兄さまたちにとってゆったりと過ごせるこの数日は貴重だ。
家族と親しい友人だけが、赤ちゃんに会いにきていた。
「リンちゃん、大きくなったね。いや、もうお妃様と呼ばないといけないかな」
「ハヅキお兄さま!お久しぶりです!」
とびきり懐かしい声に名前を呼ばれた。
従兄弟のハヅキお兄さまは、アオイ兄さまと同い年で、幼い頃よく遊んでもらったのだ。
もう一人の兄のように思っていたけれど、ハヅキお兄さまが治める領地は遠く離れていたから、もう何年も会っていなかった。
落ち着いたアオイ兄さま、明るいミサキ兄さま。二人とは全く雰囲気が違っていて、ハヅキお兄さまはとにかく優しくて穏やかだった。
その雰囲気はいまだに健在で、ハヅキお兄さまがふわりと笑うと、こちらの心までやさしく緩んでいくように感じる。
ミサキ兄さまみたいにやんちゃをしないしアオイ兄さまみたいに叱ったりしないし、ハヅキお兄さまが一番好き、なんて言っていた時期もあった。懐かしい記憶だ。
「はじめまして、カズマ殿下。ハヅキと申します。お会いするのを楽しみにしていました」
「妻から何度か御名前を伺っていました。こちらこそ、お会いできて光栄です」
兄さまたちとも違うけれど、こうして見ると彼とハヅキお兄さまは正反対だ。
身長は同じくらいだけれど。
「ハヅキ兄はリンを賢そうにしたみたいな雰囲気あるからカズマどのに好かれそうだな」
「いや、リンの賢そうじゃないところが好きなのかもしれん。第一リンと親しい男がカズマどのに好かれるわけがないだろ」
「好き勝手なことばっかり言って!」
こんなときだけ息の合った様子で私をばかにしてくる兄二人を、ポカポカと殴った。
「相変わらず仲良しだね、三人は」
「ハヅキお兄さま!こういうのは仲良しとは言わないんです!」
「そんなことないよ。僕は一人っ子だからアオイがうらやましかったんだよ、リンちゃんみたいな可愛い妹がほしかったし」
「ハヅキ兄!俺みたいな弟はいらないのか!」
「ミサキもちっちゃい頃はかわいかったね」
ガヤガヤと騒ぐ私たち四人を、彼は少し距離を置いたところで眺めていた。
私が兄さまたちと話しているときは、いつもそうだけれど。
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