▼ 56:会議のあと(2)
『イリヤくんと会うと心底嫌そうな顔して帰ってくるからねー』
そんな顔は、知らなかった。
もちろんイリヤ王子の名前が出たときにするような顔だろうと、予想はつくけれど。そうではなくて。
会議でイリヤ王子と会って来ても、彼は私の前でそのことには一切触れない。
きっと、私を気遣ってくれているのだと思う。
――でも。
『二人は夫婦だし』
王様の言葉は、心にじわりと広がっていた。
「カズマ様!イリヤ殿下の悪口大会をしましょうっ!」
「……は?」
王様と私が食事を終えてしばらく経ってから、彼も食事を済ませたらしい。
湯浴みも済んで、ソファにどさりと腰を下ろした彼に、私は宣言した。
彼は、口をあんぐりと開けている。
こんな顔は珍しい。なんだか可愛い、なんて少しにやけてしまいそうになるけれど、そんな場合ではないのだ。
「カズマ様はあのひとが嫌いで、私もあのひとが嫌いです。他の人の前だったら気兼ねして言えないかもしれないけど、私相手ならそんな必要はないんですから!」
「待て。何故そんな話になった」
「カズマ様があのひとに会って来たからです」
「……父上か」
「黙っていられたって私、嬉しくなんかありません!」
「別にそんなつもりはない」
「うそです!」
「……お前が嫌な顔をするのを、俺が見たくないだけだ」
「嫌な顔くらいさせてください!」
両手で握りこぶしを作って、私は彼に詰め寄った。
「同じ人が嫌いな相手に言わないでいつ言うんですか、悪口なんて!」
すると彼は、小さく吹き出した。
「何故そこで悪口大会になるのかいまいちわからないんだが」
「……嫌なことはぶちまけた方が忘れやすい、ってミサキ兄さまが言ってたので」
「別に俺は忘れられるぞ」
「強がりはやめてください。それに私、すっごくイリヤ殿下の悪口を言いたいし聞きたい気分なんです!カズマ様を振り回して!何様のつもりですか!」
「いや、俺が勝手に振り回されているだけで、」
「何でイリヤ殿下を庇うんですか!」
なかば自棄になって声を荒らげる。
ああ、こんなとき私がもっと大人だったら、いろいろとうまくできるかもしれないのに。
私はただ、彼に嫌なことを吹き飛ばしてほしいだけで。それを私が手伝えたら嬉しいと思っているだけで。
なのに今、彼を呆れ顔にさせてしまっている。
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