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「問題はカズマ本人がそれに全然気付いてないってことだよねえ」
これにも、私は頷くしかない。
私がイリヤ王子のいびつな憧れを指摘したとき、彼は虚を突かれたような顔をしていた。
「イリヤくん自身もどこまで自覚があるのかはわからないけれど、リンさんを引き合いに出すだけで簡単にぐらついちゃうカズマは、あの子にとって新鮮で面白くて……苛立つんだろうね」
だからこそ、エスカレートした。イリヤ王子の『ちょっかい』が。
「たやすく『リンさん』という弱点を見抜かれてしまっていること。それから、あの子を無視しきれない甘さ。――嫌うのも苦手に思うのも自由だけど、守りたいならこれは駄目だ。カズマの落ち度だね」
はっきりと言う王様は、厳しい目をしている。
そう、彼もイリヤ王子を意識しているのだ。だから、きっかけさえあれば協力できる間柄になるのではないかと私は彼に口出ししてしまったことがある。
その考えは変わっていない。例え私があのひとを、大嫌いだとしても。
つまり、放っておくことも取り込むこともできない、今の彼の状態を、王様は『甘い』と判じているのだろう。
「――と、いうようなことを、もっときつく言ってしまったわけなんだけど」
先程とは打って変わって、おどけるような口調で王様は両手をひらひらさせた。
いつもの王様らしい表情に、私はなんとなく安心する。
同時に、彼は今頃、落ち込んでいるかもしれないと少しだけ心配になった。
王様が、そんな私の顔を、ひょい、と覗き込んだ。
「だからね、リンさん。カズマはまだまだ弱い。そんなカズマのことを、ほんのちょっとだけ守ってあげてよ」
「陛下……」
「リンさんがカズマといてちょっとでも強くなれたら、そのぶんだけ、ね」
ぽん、と軽く頭を撫でるそのしぐさは、少しだけ彼を思わせた。
「カズマの……そうだな…気持ち、とか?守ってあげて」
『国王』としての王様は、どこか彼を突き放しているようなところがある。
だけど、やっぱり王様は彼の『父親』だ。
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