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はっきり言ってあまり評判のよくないあの国は、周囲から浮いているところがあって、その分動きが掴めず警戒心を抱く国も少なくはなかった。
イリヤ王子は王様の言うとおり『能力はある』らしいから。
「でも、そんなものがカズマに通用するはずはないんだ、本来ならね」
王様は、椅子の背もたれに身体を預け、こちらを向いて微笑んだ。
「それなのに、カズマは人一倍あの子を警戒してるし、嫌ってる」
必要以上にね、と王様は付け加える。
「理由のひとつはもちろん、リンさんだね。いろんな意味で弱点だから」
「え、と……」
何と答えていいか迷うけれど、それは確かに鈍い私の目から見ても明らかだった。
守りたいなら弱点にするな、と釘を刺されていた彼を思い出す。
だけど、私が嫁ぐ前から、彼はあのひとを苦手としていたような印象を受けた。
「それからね、カズマは子供が苦手なんだ」
「あ……」
私の心を読んだようなタイミングで王様が口にした言葉が、妙にすとんと腑に落ちた。
彼は『子供が苦手』。
どう接していいかわからない、と以前言っていた。
「他人のものを欲しがる、それを簡単に口にする、他人を平気で傷つける。そんなのは全部、もののわからない子供のやることだ」
だからこそ、能力があると認めながらも王様はイリヤ王子に危機感を抱かないのだろう。
「もちろんカズマも子供なところはたくさんあるけれどね。だから扱いかねてるんでしょう、イリヤくんを。まあ、あの子が大人になれば脅威かもしれないけれど……逆に言えば大人になってくれればこんなことで悩まされる必要もなくなるんだよねえ」
苦笑しながら、再びワイングラスを傾ける王様。
「ところでリンさん。リンさんを欲しがるあの子の目が、カズマに向いているのはわかっているよね?」
「……はい」
彼自身は気付いていなかったようだけれど、出会ったその日に私は感じ取れた。
イリヤ王子の『興味』の矛先。
羨んでいるのか、憧れているのか――ただ、ひどく歪んでいるような気はした。
「あの子は、カズマを通して、リンさんに関心を抱いてる」
私が感じた印象と全く同じことを、王様は言う。
「つまり『カズマに愛されてるリンさん』だから欲しいんだ――結局のところ、欲しいのはカズマの中にある何か。それは気付いているよね?リンさんも」
私は頷く。
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