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「か、カズマ様……あの、私、ほんとにそんなつもりじゃ……」
退かせようと彼の腕を掴むけれど、まったく力が及ばない。
「ついでに言っておくが」
「……?カズマ様……?」
「俺を止めたいなら、そんな顔で名前を呼ぶのは、逆効果だ」
「えっ……あっ、やっ……!」
彼の指先が触れた場所に、今度こそ、くすぐったいなんてものじゃない――もっと切実で恥ずかしい感覚が走る。
「か、カズ……っっ」
名前を呼びそうになって、たった今言われたことを思い出し、慌てて口元を押さえた。
すると、彼がまた、堪え切れなくなったように吹き出した。
「時々腹が立つくらいだな」
彼はなぜか、その表情とは真逆のことを言う。
「わ、笑ってるじゃないですか」
「ああ、そうだ。お前が可愛いから」
「……からかってる!」
「そんな余裕なんてない」
「う、うそ!……やあっ……!」
指先に翻弄されて思わず閉じかけた両脚を、彼の身体で軽く開かされ、はしたないかっこうになってしまう。
彼は、着ていたベストを脱いで、邪魔だとでも言うように自分のシャツのボタンをいくつか外した。
私のブラウスのボタンにも、彼の手がのびる。
「まっ、待ってカズマ様……!ユキが見てるからっ!」
「寝ているぞ」
「えっ?あっ!そんな!ゆ、ユキぃ〜〜!!!」
「犬の名前なんか呼ぶな」
元はといえば彼が、私とユキが遊んでいたのを邪魔してきたせいなのに。
私はただ、彼にちょっといたずらをしようとしただけだったのに。
どうして、まるで私の自業自得みたいに――こんなに恥ずかしいことに、なってしまっているのだろう。
時々わざとくすぐるように触れて、彼は私の反応を楽しんでいる。
そのたびに私は、身体に熱がたまっていくみたいで、焦らされているようにも煽られているようにも感じてしまう。
落とされるキスにも、身体の奥を弄ぶように動く指先にも、低い囁きやわずかに乱れた息遣いにも――ぜんぶに反応してしまう私は、もうとっくに、くすぐったいという感覚がどんなものだったか、わからなくなってしまっていた。
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