▼
すると。
「…………くっ」
「!?」
なぜかこのタイミングで彼が吹き出したから、私は眉を吊り上げた。
「何がおかしいんですかー!くすぐってもずっと笑わなかったくせに!」
「いや、なんでそんなに必死なのかと」
何かがツボに入ってしまったらしく、珍しく彼は肩を震わせて小さく笑い続けている。
「……だって、何が楽しいのかなんて言うから……」
笑われたことがなんだか悔しくて、私は唇を尖らせた。
と。
「たぶん、こっちの方が楽しい」
「え?」
その意味を聞く間もなく、彼の手であっさりと床に仰向けにされてしまった。
いつもの無表情ではなく、意地悪な笑顔でもなく、楽しそうな笑みを浮かべた彼が、私の脇腹に手をのばす。
「あっ!だめ!カズマ様、待っ……きゃああっ!やだやだ!やめてください!あはははっ!やだあーっ!」
脇腹を指でなぞられるだけで身体じゅうがぞわぞわして、私は悲鳴を上げながら身をよじった。
「仕返しだ」
「仕返しって、カズマ様全然くすぐったがってなかっ……だめだめ!首だめです!や、やぁぁーっっ!」
「暴れるな」
「だってだって!ふふっ…あははっ!やめっ……きゃあああっ!」
まるでおもちゃで遊ぶこどもみたいに楽しそうに――そんな顔はめったに見ることはないのだけれど――彼は私を容赦なくくすぐり続けた。
「お前の身体は弱点だらけだな」
「そっ……カズマ様に弱点がなさすぎ、きゃああっ!やめてーっ!」
「そんなことはない」
「う、うそつき、ひゃああっー!も、もうだめですカズマ様、やめてやめて!やめてくださいーっ!」
じたばたと暴れると、彼がすっと手を引いた。
「は、はあ……」
笑い疲れた私は、ぐったりとため息をつく。
しかし、
「一番弱いのは、首だったか?」
「きゃあああーーーっ!」
油断したところを、また襲われた。
首筋を指先でなぞられて、逃げようと横向きになる。
すると、ぐいっ、と顎を掴まれて、視界が急に狭くなった。
「……っ!」
唇が重ねられて、すぐに息苦しくなる。
侵入してきた彼の舌先までもが、なんだかくすぐったいような気がして、私は彼の胸板をぐいぐいと押し返した。
しかたなく、といった風に彼が私を解放してくれたから、肩で息をしながら彼を見上げて睨みつける。
「わ、私で遊ばないでください……!」
prev / next
(2/4)