my beloved | ナノ


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――と。

彼の手が、私の腕を掴んだ。


「あ……」


力は込められていない。そのまま彼の方を向かされる。


「あ、の、カズマ様……」


彼は何も言わないまま、私を見下ろして髪をゆっくりと撫でた。

その目がなんだか嬉しそうで、私の鼓動はますます速くなってしまう。


「カズマ様……え、と……」


彼が額に、頬に、優しくくちづけを落とす。


私は、固まってしまったように動けないまま、彼をひたすら見上げることしかできない。


やっぱり、こちらを見つめる彼の瞳は、胸が痛くなるくらいに――



彼の両手が私の頬を包んで、びっくりするくらいにやわらかく、唇が重なる。


本当に、触れているだけの、くちづけ。


「…………っ」


いつもみたいな息ができなくなりそうなキスではないはずなのに、何故か足に力が入らなくなって、その場に膝から崩れ落ちてしまった。


それを見た彼がやっと、声を上げて笑った。


「お前は、ほんとに……」


まだ残る笑いを噛み殺すような顔で、彼が私の腕を引っ張る。




「夢を見ていたんだ。お前の」

「え……?」

唐突に言われて、私は目をまるくする。


「やけに幸せな夢だった。だが、どうやら夢じゃなかったらしいな」

「あ、あの……」


どんな夢ですか、とは恥ずかしくて聞けなかった。



彼は私の耳元で、

「あまり可愛いことをするな。いろいろと、困る」

そう囁くと、いつもの意地悪な笑顔を浮かべて寝室のドアを開けた。



彼はその後すぐに眠ってしまったけれど、私は当分、眠りにつくことができなかった。

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