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頬を包んでくれる大きな手に、自分の手を重ねる。
私の手は小さくて、彼にあげられるものがあるとしても本当に僅かなのだろうと、実感するけれど。
「カズマ様。私はカズマ様を好きな気持ちしか持っていないって、昨日言いました」
ずっと、そのことが後ろめたくて情けなくて、不安だった。
でも、今は違う。
「私、カズマ様を好きで、嬉しいです。幸せです。カズマ様を好きな気持ちひとつで、私はたくさんのものを手に入れました」
『もらってばかり』――それなら私の両手は、大切なものを、持ちきれないくらいに抱えているはずだ。
彼を好きになって、彼に大事にされて、毎日毎日、溢れそうなくらい。
「それって、他に何を持っているよりも、ずっとずっと、すごいことだったんですね」
西の国のあのひとが、また私を揺さぶろうとすることがあるかもしれない。
だけどもう『何も残らない』なんて、言わせない。
あのひとにとってからっぽに見える私は、からっぽなんかじゃないと私自身が知っている。
彼がそう、教えてくれた。
『あんたに何があるのかな』
そんなこと、あのひとにはわからなくていい。
彼以外誰も、わからなくていい。
彼が今の私の言葉に頷いてくれたから、それでいい。
私は、他の誰でもない、彼の妻なのだから。
「やっと笑ったな」
安心したように彼がそう言ったから、私は目をまるくした。
「え……?」
「お前が俺以外の人間に泣かされるのは我慢ならないからな」
「えっ?え、と……?」
私はこの一週間、笑っていなかったわけではないし、泣いていたわけでもない。
彼の言いたいことが、わかるようなわからないような、複雑な気分になった。
「……カズマ様は、泣かせていいんですか?」
だから見当違いのことを聞いてしまう。
すると彼は、意地悪く笑った。
「時と場合による」
なんとなく、恥ずかしくなるようなことを言われた気がして、私は俯いた。
すると。
「言っておくが」
彼が、くい、と私の顎を持ち上げた。
「俺がお前の願いを叶えるように、俺の願いを叶えるのはお前だ」
彼の瞳に、彼に溺れた『愚か』な女が――私が映っている。
きっと私の瞳にも、彼だけが。
「俺がそばにいろと願ったら、お前が叶えろ」
命令のような言葉。
それでもきっと今、私は、またひとつ、彼に『もらった』のだろう。
「はい。はい、カズマ様」
噛み締めるように、私は何度も頷いた。
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