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「カズマ様……っ」
ドアに背中を縫いとめられたようで、彼の指先に与えられるものに身を震わせても、どこにも逃げることはできない。
私をこんな風にしているのは彼なのに、助けを求めるように掴むのは彼の肩で、背中で。
いつになく速い彼の呼吸と、触れた背中を濡らす汗と熱を感じながら、私は気付く。
私はいつも、彼に求めるばかりだ。
彼にいつも、もらってばかりなのに。
彼を幸せにしたいと思いながら、その一方で、彼のくれるものを『もっと』と、欲しがっている。
今、こんな時でさえも、本当はきっと私の方が、彼のことを求めている。
だから『未来でも好きでいてほしい』だなんて、そんなことを願う。
彼はそんな不確かなことは、求めたりしない。確かなことだけを、私にただ、告げる。
確かなものが目の前にあっても、その先まで欲しがっているのが、私だ。
欲しがっていい、のだと思う。彼はそう言うだろう。
だけど、受け入れることを忘れて欲しがるばかりなら、それはきっと、間違っている。
――私が、彼を好きな気持ちしか持っていないのなら、ただ、好きでいればいいだけのことなのに。
過去なんて、未来なんて、そんなものは、『今』に敵うはずがないのに。
『カズマに飽きられたら――』
もしそんな日が来るのだとしたら、その時にどうするか考えればいい。
そして今の彼は、そんな日は来ないというのだから、そう言う彼をただ、信じればいい。
それをあのひとは、ますます愚かだと思うかもしれない。
だったら私は愚かでいい。
彼が私に与えてくれる愛情を受け取れるのは、私しかいないのだから。
今が幸せなら、ただひたすら、幸せでいればいい。
幸せであることを、見失わなければいい。
そうすれば、私だって彼に何か、あげられるものがあるかもしれない。
「カズマ様……っ」
それを何とか伝えたくて、だけど、名前を呼ぶことしかできなくて。
「リン」
もう一度だけ強く抱きしめられた後に、私が感じられるのは、彼のことだけになった。
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