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「カズマ、様……」
「……悪い。違う。そんなことが、したいんじゃない」
憔悴したように、彼が呟く。
そもそも、そんなことはできないと知っている。彼も私も。
それでも、今の言葉が嘘じゃないことは、わかる。
だからこそ――
「ごめんなさい……!ごめんなさい、カズマ様。私……」
きっと、何度も彼が教えてくれたとおり、私も彼も同じなのに。
どれだけ彼のことが好きか、ぜんぶを伝える方法がわからないから、もどかしくて、自信がなくて――不安になる。
『俺でいいのかと思ったことは、一度や二度じゃないぞ』
同じ、なのに。
私はそれを忘れてしまっていた。
自分の不安にかまけて、彼を、閉め出した。
そして、彼をきっと、傷つけた。
――傷つけたら許さないと、悲しませることはしないと、そう言ったのは私なのに。
「ごめんなさい……ごめんなさい……!」
必死で涙を堪えながら、精一杯の力を込めて彼の背中を抱きしめる。
それでも、彼の腕の力には、全然敵わなかった。
どん、と音を立てて、抱きしめられたままドアに背中を押し付けられる。
痛みすら、感じる余裕はなかった。
全身を押さえつけられたまま、乱暴すぎるくらいに唇を奪われる。
私の息が上がっても、涙が浮かんでも、彼はやめない。
私も、やめてほしいとは思わなかった。
「……っ」
それでも、立っていられなくなった私が、がくりと膝から崩れると、それを支えながら彼も床に膝を付いた。
「……リン」
私を呼ぶ声にこめられているのは、怒りだろうか、苛立ちだろうか、それとも迷い、痛み、だろうか。
懇願、かもしれない。
何度も、自分のものだと確認するように強く唇を重ねながら、彼が私に触れる。
いつも、丁寧にほどいていくように触れるその手は、まるで無理矢理こじ開けるように、余裕も容赦もなく、触れる。
押し寄せる後悔と自己嫌悪。ぶつけられる彼の感情のぜんぶ。
いろんなことがぐちゃぐちゃで、気が変になってしまいそう。
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