▼ 06:雨降りの翌日
昨日は、一日中雨が降り続いていたから、ユキは散歩ができなくて退屈していたようだった。
だから、きれいに晴れた今日は、散歩中もいつもよりはしゃいでいる。
自慢の白い毛が、雨上がりの土で茶色くなってしまうのも構わず、走り回る。
着いて行く私の方が大変だった。
「キャンキャン!」
ユキが私を呼ぶように吠える。
庭の小さな池のそばに立って、池の中を見つめているようだった。
どうやらアメンボに興味を示しているらしい。
「わかったわかった!今行くから!」
そう言ってユキの元に駆け寄った時、ぬかるんだ土と草に、足を取られた。
「っ、きゃあっ!」
足を滑らせ、浅い池の中にしりもちをついてしまった。
普段着とはいえ、服が台なしだ。
マリカさんに怒られるだろうか。
……というかその前に、こんなに汚れてて室内に入れるだろうのか。そもそも王族として、こんな失態はありえない。
私が途方に暮れたままでいると、ふいにガサリと音がして、草を分けて彼が現れた。
剣の稽古をしていたらしく、質素な服を着て、少し汗をかいている。
「お前は、本当に阿呆だな」
あきれた表情の彼。
「……ご、ごめんなさい」
恥ずかしくて俯くと、ふわりと身体が浮いた。
「わっ!カズマ様!泥がついちゃいます!あと恥ずかしいです!」
彼が私を肩に抱え上げたのだった。
片手でユキの首根っこを掴み、もう片方の腕で私を担いで、彼はずんずん歩く。
まるで荷物のような持たれ方で、情けない気分だ。
私の抗議を受けて、彼は私を降ろした。
「泥は気にするな。俺たちも稽古で汚れる。担がれるのが恥ずかしいなら、」
彼はユキを私に手渡す。
「これならいいのか」
そう言って、私を再び抱き上げた。
右手は肩を掴み、左手は膝の下を支える。つまり、いわゆる『お姫様だっこ』。
「きゃあああっ!ちょっと、カズマ様!違う意味ですごく恥ずかしいからやめてください!」
私は羞恥に耐えきれず、ユキの毛に顔を埋める。
「黙れ。さっさと戻らないと風邪を引く」
今度は一切抗議を聞いてくれない。
彼は、そのままマリカさんたちの元へ私を連れて行くと、
「池に落ちた。風邪を引く前に湯浴みをさせてやってくれ」
そう依頼して、私を再び降ろし、外へと戻って行った。
服を汚したことを、マリカさんたちは全く怒らなかった。
その代わり、さんざん『お姫様だっこ』に関してキャーキャー騒がれ、冷やかされた。
よかったのか悪かったのかわからないけれど、とにかく私は、恥ずかしくてずっと顔を覆っていた。
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