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そして、きっぱりと言う。
「本当に大切にしたいなら、みすみす弱点になんてしないことだ」
王様は、彼の肩にとん、と手を置いた。
「いつか自分が言ったことを違えちゃいけないよ。守りたいなら、もう少し大人になりなさい」
『いつか』というのがいつのことで、その時彼が何を言ったのか、私は知らない。
それでも、王様の言葉を聞いた彼の表情が変わったから、それはとても大事なことだったのだと感じた。
王様は、そんな彼を見て小さく苦笑した。
「頭ではちゃんとわかっているんだろうけどね」
そのまま、王様は私たちに退室を促した。
無言のまま一礼をして部屋を出る彼の後に、私も続いた。
「もちろん、妃を侮辱したと書状を突き返すって選択肢もあるだろう。だけどそれは、私が絶対に許可しないよ」
去り際、釘を刺すように王様がそう言った。
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彼は、黙って私の手を取ると、バルコニーへと足を向けた。
とっくに陽が落ちた空には、たくさんの星が散らばっていて、頬を撫でる風は心地いい。
昼間に感じていた息の詰まりそうな空気が、どこかへ飛んでいってくれればいいと私は願った。
彼と並んで星空を見上げる。
いつもなら、ただただ幸せな時間のはずなのに、今夜はそれだけじゃない。
「悪かった。嫌な思いをさせた。そばにいられなかった」
ようやく口を開いた彼は、呟くように言った。
「カズマ様が謝るようなことなんて何もないです。私がもう少ししっかりしていれば、つけ込まれなかった」
きっと彼は『悪かった』と、そう言うだろうと思っていたから、私は用意していた言葉をすぐに返した。
『ごめんなさい』と言いそうになったけれど、それでは彼の公私混同を認めてしまうような気がしたから、言わなかった。
「そんなことは関係ない」
しかし、彼はきっぱりと言った。
「あの男は、俺を試すためにお前を傷つけた。それをみすみす許してしまったのは俺だ」
「カズマ様はたまたま出掛けて……」
「それも関係ない。あの男が国益と感情を計りにかけるような真似をしたのは、そうすれば面白いものが見られると思ったからだ。つまり、俺が揺らぐと」
彼は、真っ暗で静まり返った中庭に視線を向けた。
何を見ているわけでもないのだろう。
「案の定、そんなくだらないことを仕掛けられて、あっけなく動揺した。父上がいなければ、あの男の思う壷だった」
あらわにしている嫌悪感は、あのひとに対してなのか自分自身に対してなのか――彼は、私の方を見ないまま言葉を続ける。
「俺が弱いから、お前が傷つくことになった。一番したくないことを、した」
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