my beloved | ナノ


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そして、きっぱりと言う。

「本当に大切にしたいなら、みすみす弱点になんてしないことだ」


王様は、彼の肩にとん、と手を置いた。


「いつか自分が言ったことを違えちゃいけないよ。守りたいなら、もう少し大人になりなさい」


『いつか』というのがいつのことで、その時彼が何を言ったのか、私は知らない。

それでも、王様の言葉を聞いた彼の表情が変わったから、それはとても大事なことだったのだと感じた。



王様は、そんな彼を見て小さく苦笑した。

「頭ではちゃんとわかっているんだろうけどね」



そのまま、王様は私たちに退室を促した。

無言のまま一礼をして部屋を出る彼の後に、私も続いた。



「もちろん、妃を侮辱したと書状を突き返すって選択肢もあるだろう。だけどそれは、私が絶対に許可しないよ」


去り際、釘を刺すように王様がそう言った。



****



彼は、黙って私の手を取ると、バルコニーへと足を向けた。


とっくに陽が落ちた空には、たくさんの星が散らばっていて、頬を撫でる風は心地いい。

昼間に感じていた息の詰まりそうな空気が、どこかへ飛んでいってくれればいいと私は願った。



彼と並んで星空を見上げる。

いつもなら、ただただ幸せな時間のはずなのに、今夜はそれだけじゃない。


「悪かった。嫌な思いをさせた。そばにいられなかった」


ようやく口を開いた彼は、呟くように言った。


「カズマ様が謝るようなことなんて何もないです。私がもう少ししっかりしていれば、つけ込まれなかった」


きっと彼は『悪かった』と、そう言うだろうと思っていたから、私は用意していた言葉をすぐに返した。

『ごめんなさい』と言いそうになったけれど、それでは彼の公私混同を認めてしまうような気がしたから、言わなかった。


「そんなことは関係ない」

しかし、彼はきっぱりと言った。


「あの男は、俺を試すためにお前を傷つけた。それをみすみす許してしまったのは俺だ」


「カズマ様はたまたま出掛けて……」


「それも関係ない。あの男が国益と感情を計りにかけるような真似をしたのは、そうすれば面白いものが見られると思ったからだ。つまり、俺が揺らぐと」


彼は、真っ暗で静まり返った中庭に視線を向けた。

何を見ているわけでもないのだろう。


「案の定、そんなくだらないことを仕掛けられて、あっけなく動揺した。父上がいなければ、あの男の思う壷だった」


あらわにしている嫌悪感は、あのひとに対してなのか自分自身に対してなのか――彼は、私の方を見ないまま言葉を続ける。


「俺が弱いから、お前が傷つくことになった。一番したくないことを、した」

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